『ぱいかじ南海作戦』(椎名誠・新潮文庫)をよむ。
会社の倒産(そして失業)と離婚がいちどにやってきた
36歳の「おれ」が主人公。
なんとなく西表島をめざし、
ついた浜辺で海浜生活をはじめる。
楽園のような生活、とおもったのもつかの間、
まえからそこにすみついていたグループにだまされ、
全財産と荷物をとられてしまった。
しかし「おれ」はくじけずにその浜にのこり、
まったくなにもないところからの
本格的なサバイバル生活がはじまる。
おもしろかった。
椎名誠の本はだいすきでこれまでにずいぶんよんでいる。
でも、そのほとんどがエッセイと旅行記であり、
ほんとうの意味での小説はこれがはじめてだった。
西表島でじっさいに
そういう生活をしているひとたちのはなしをきいたそうだし、
そもそも「わしらはあやしい探検隊」の
延長みたいなはなしなので、
気らくにかけたと椎名さんが
「椎名誠 旅する文学館」でかたっている。
ほとんどお金をつかわないで
衣食住をなんとかしたり、
たまにのむビールや泡盛が
とんでもないごちそうだったり、
いのししがワナにかかったりで、
なんだかほんとにたのしそうだ。
おもしろくなったところで
ものがたりはあっけなくおわってしまう。
もうすこしそのさきがよみたかったのに、
短編小説みたいに
あとは読者の想像力にまかされたかんじだ。
茂木健一郎さんの解説がよかった。
シーナワールドについて、
これだけ適切にまとめられたものはあまりない。
茂木さんはそうとうなシーナフリークみたいだ。
椎名さんはけっこうこまかい
(「女々しい」と『かつおぶしの時代なのだ』の解説で
佐野洋子さんが椎名誠の本質をするどくついている)。
「おれ」の心理描写には
椎名さんのこまかさがうまくいかされていて、
そしてはなしのおわりかたは
椎名さんのおおざっぱさがでている、
いかにも椎名さんらしい一冊といえる。