『ステキな金縛り』をみる。
おもしろかった。
よくねられた脚本のたのしさをおしえてくれる
お手本のような作品だ。
『ザ・マジックアワー』もおもしろかったけど、
この『ステキな金縛り』もおしゃれに、
そしてのびびとふざけてつくられている。
おかしかったシーンがいくつかある。
ユーレイがみえるひとたちにあつまってもらい、
どういう共通条件があるかをかんがえている場面は、
かんがえてみればありえない状況だ
(どうやってそのひとたちをさがしだしてきたんだ?)。
どれだけふざけられるかを大切にする、
三谷監督らしいサービス精神ゆえの場面だろう。
もうひとつ。
証人のユーレイがあらわるには
陽がしずむまであと2時間またなければならず、
こまっている深津絵里に上司の阿部寛が
「わかった。俺がなんとなする」
とかっこよくひきうける。
で、なにをするかとおもったら、
ならいはじめたタップダンスを披露して、
ほんの数十秒かせいだけでちからつきる、
というところ。
たよりになりそうでならない上司役を
阿部寛がさらりとえんじている。
西田敏行の六兵衛さんがみえているカットと、
みえてないカットが効果的にいれかわる。
殺生されてひとりでもだえる中井貴一とか、
おまわりさんにけげんな顔をされる深津絵里がすごくおかしい。
そして、そうやってあそびながらも
登場人物たちの「善」なる部分がつたわってくるので
こころにのこる場面となる。
ただ、以前かわいがっていた犬(ラブ)と
再会したときの中井貴一は、
あまり犬がすきでないのがわかってしまった。
ほんとうの動物ずきが
わかれていたペットとであったら、
あれぐらいのよろこびではすまない。
正直なもので、ラブのほうも
あまり再会をよろこんでいるようにはみえなかった。
犬ずきの三谷監督が、
この妥協についてどうかんがえられているのか、
しりたいところだ。
かぎられた空間をじょうずにつかうのが
三谷監督の得意とするところだけど、
この作品ではかなり外にもでかけている。
そうした意味ではこれまででいちばん
ふつうの映画らしいつくりでありながら、
三谷監督はこれまでどおり
脚本によるおもしろさで勝負している。
サービス精神にあふれた作品であり、
みおわったあとのすがすがしさも
第1級の作品だ。
三谷監督は、先日放映された
『情熱大陸』にも出演されていた。
「すべては制約からはじまる」
「どんな体験もコメディに」
「追い込まなければ道はひらけない」
「制約のなかに答えがある」
「自分が信じなければ、
だれが自分を信じるんですか」
なんてすてきなことをいうのだ。
プロフェッショナルとは、ときかれると、
「期待にこたえること。
自分がやりたいものをやるんじゃなく、
ひとが自分にやってほしいとおもうものをやる」
というかんがえ方もすばらしい。
今回の作品では、
自信をもつことの大切さをつたえてくれたのが
わたしにはとくにひびいた。
これまであまり評価してこなかった三谷監督だけど、
この『ステキな金縛り』のおもしろさで
そのかんがえをあらためた。
どこまでも脚本をねりあげて完成度をたかめようとする
すばらしい監督である。