『ジブリの哲学』(鈴木敏夫・岩波書店)をよむ。
おなじ岩波書店からでた『仕事道楽』とどうちがうのか。
『仕事道楽』はサブタイトルに
「スタジオジブリの現場」とあるものの、
ジブリにかぎらず鈴木さんが仕事について
どうかんがえているかを本にしたものであり、
いっぽうこの『ジブリの哲学』は、
鈴木さんがこれまでにジブリの作品について
あちこちにかいてきたことを
1冊にまとめたものである。
いまでこそ鈴木さんといえば
ジブリの有名なプロデューサーだけど、
アニメーションとのかかわりは、
雑誌『アニメージュ』の創刊をまかされることになったという
「たまたま」の出来事に端をはっしている。
『アニメージュ』の取材で宮崎さんと高畑さんにであい、
やがて彼らとの作品づくりにかかわるようになっていく。
安定した映画づくりのために宮崎さんたちとジブリをたちあげ、
その作品を大ヒットさせたプロデューサーとしての活躍は
よくしられているとおりだ。
興味ぶかいのは、鈴木さんが庶民として生きることを
大切にかんがえている、ということだ。
『大菩薩峠』という本にでてくる龍之助にひかれ、
「目的を定めず、目の前のことをこつこつとこなす。
それが、いわゆる庶民の生きる知恵だ。
僕は、そう考えて受け身と消極で生きてきた」
鈴木さんが「受け身と消極で生きてきた」
ようにはとてもおもえないが、
庶民として生きているからこそ、
作品のヒットにあぐらをかくことなく
ジブリの方向性をうちだすことができるのだろう。
東北大震災がおきたあと、
気仙沼市で『コクリコ坂から』の上映をすることになった。
いっしょにでかけた鈴木さんの仲間が、
「今回の東北行きを映画の宣伝に使わないこと」
といい、
鈴木さんも
「これは、守らなければいけないことだ」
と、当然のこととしてうけとめている。
庶民としての正常な感覚は、
こんなところにみることができる。
鈴木さんはもうひとつ、時代性ということを
どの作品づくりでも大切にしている。
「いま」という時代にアニメーションをつくる意味はなにか。
時代がもとめる意義にこたえられなければ
たとえつくりたい作品であってもいったんはとりさげ、
制作するにふさわしい時期をうかがう。
この、時代をみる目のたしかさも、
鈴木さんの仕事をみるときにはずすことはできない。
宮崎さんや高畑さんという天才がつくる作品も、
鈴木さんの存在がなければ
またちがったものとなっていただろう。
たまたまであったにすぎないアニメーションと、
こんなにたのしそうにかかわる鈴木さんは、
きっと対象がなんであれ、
じょうずに相手のよさをひきだしたことだろう。
「たまたま」アニメーションにであい、
ジブリの作品づくりたずさわってくれたことは、
わたしにとって、おおくの日本人にとって、
そして世界じゅうのひとびとにとって
しあわせなことだった。