2012年01月30日

『争うは本意ならねど』(木村元彦・集英社インターナショナル)

川崎フロンターレでプレーしていた我那覇選手が
2007年にドーピングのえん罪事件にまきこまれる。
この事件についてなんとなくしっていた。
記者会見にのぞむ我那覇の誠実なことばとはうらはらに、
新聞にでているJリーグ側の硬直した強弁がみにくかった。

体調不良のときにうった点滴注射を、
ニンニク注射と誤報されたのがことのほったんだ。
治療にあたったフロンターレの医師と我那覇選手が、
いくらニンニク注射はうってないといっても
Jリーグ側にぜんぜんきいてもらえない。
いちどくいちがった歯車は、
くいちがったまままわりつづけ、
とめることができない。
まったく、ありえないような
ほんとにバカバカしいはなしなのに、
いったん我那覇に罪をかぶせたJリーグ側は
わかっていながらあやまちをごりおししようとする。

我那覇とフロンターレの担当医をまもろうとする医師団は、
Jリーグ側の判定に意義をとなえ、事実をあかそうとする。
それを、Jリーグの医事委員会の青木委員長は
ああいえばこういうで、詭弁をつかい、解釈をねじまげ、
なんだかんだとへりくつをたれるのだ。
本の前半は、よんでいてつらかった。
この、青木委員長というひとはすごく弁がたち、
たくみに論点をそらしてしまう。
頭のいいひとが、悪意でその才能をつかうと、
おとしいれられるほうはたまったものではない。
こういう人間が権力をもつ側にはたくさんいるのだ、きっと。

おおくのひとの支援(医師団・選手会・各チームのサポーター・沖縄の支援者など)をうけ、
もちろんもともと無実だったのだから当然とはいえ、
我那覇は最高決議機関のCASから潔白の判定をうける。
著者の木村さんは
もうこの2007年のドーピングをめぐる事件を『我那覇問題』と記することに終止符を打つべきである。
何となれば、責任をはっきりさせるならば、これは『青木問題』であり、『鬼武問題』であり、『川淵問題』であるからである。

としている。
ほんとうにそうで、
我那覇をはじめ、この問題をひとごとにしなかったひとたちにより、
Jリーグ、そして日本のスポーツ界はすくわれたのだ。
それをこじらせ、フェアプレーをおこたったのは
Jリーグの権力をにぎるひとたちだった。
Jリーグ側はいまだに我那覇に謝罪していないし、
フロンターレに1000万円の制裁金をかえしてもいない。
わたしがだいすきなサッカーをけがすのが、
当のサッカー協会という組織そのものであり、
その中心にいすわるひとたちであることにとても腹がたつ。

木村元彦さんがこの本をかいてくれたことに感謝したい。
権力によっておさえられようとする側にたち、
事実をあきらかにし、
それをわたしたちにしらせてくれた。
こういう本をだせるのが真のジャーナリストだ。
医師団・サポーター、そして
おおくのサッカーを愛するひとたちによって
「Jリーグ問題」はなんとか最悪の事態をまぬがれた。
わたしは我那覇の勇気と、
それをささえたたくさんのサッカーを愛するひとたちに感謝する。

posted by カルピス at 23:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | サッカー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする