『シコふんじゃった』(周防正行:監督)
テレビをつけたらたまたまこの作品がやっていた。
はじめてこの作品をみたときのことを、
時代の空気とともによくおぼえている。
周防監督の存在をしり、
前作の『ファンシイダンス』までさかのぼってみた。
わたしはまだ30代の前半で、
障害者介護の仕事についたばかりの
無知で無名で貧乏な(いまもいっしょか)わかものだった。
散髪店で髪をきってもらっているとき、
鏡ごしにこの作品をみた。
ちょうど『Shall We ダンス?』が話題になっていたときで、
その宣伝をかねた放映だったのだろう。
ほんのわずかな場面をみただけで、
これはぜったいおもしろい作品だとわかった。
髪をきりおわると、おおいそぎで家にかえりつづきをみる。
すぐれた作品は、ほんの1シーンをみただけで
そのよさがわかることを体験させてくれた作品であり、
以来、映画についての自分の感性に自信をもつことになる。
いつもながら、はじめてみたときの記憶はふたしかだ。
登場人物やストーリーなど、
まったくわすれていることがたくさんある。
当然ながら榎本明も清水美砂もまだわかく、
もっくんのおしりはキュッとしまっている。
彼がなんどもくちにする「え?」はとても自然にきこえた。
竹中直人がゲリピーのお腹をかかえ、
相手の鼻にずつきをかましてかってしまうシーンは、
なんどみてもおかしい。
B級作品のよさの、へんにかまえないで
自由につくったのびやかさがよくあわられている。
大学の構内で新入部員をあつめる場面では、
金のかかりそうな女子大生がチャラチャラあそんでいる。
いかにもこの1991年というバブリーな時代らしい。
そういうときに「相撲」を題材にえらんだところが
周防監督らしいといえるだろう。
選曲もよく、おおたか静流の
「悲しくてやりきれない」と「林檎の木の下で」が
トホホのこの作品にピッタリだった。
相撲はだいきらいだけれど、こういうふうに味つけされると
なかなかわるくない競技におもえてくる。
だめだめなチームがだんだんつよくなって・・・、というストーリーに、
わたしはすごくよわい。