2012年04月30日

『インドは今日も雨だった』(蔵前仁一・講談社文庫)「沈没」ではない北インドへの旅

『インドは今日も雨だった』(蔵前仁一・講談社文庫)

蔵前さんがこれまでにだした本、
たとえば『ゴーゴー・アジア』や『ホテルアジアの眠れない夜』は、
バックパッカーの存在を一般社会に紹介し、
そういう旅行のやり方があることをひろめるのに、ひとやくかっている。
できるだけお金をかけないで旅行し、
気にいった町があると何週間でも「沈没」するという
バックパッカーの生態は、
それまではほとんどしられていなかった。
「旅」をあつかった本というと、
自分さがしや修行的なものがおおい。
そういう「立派」な旅ではなくて、
ただなんとなく外国での旅をたのしむということも、
それはそれで、ひとつのスタイルであるとみとめられたのは
蔵前さんの功績であ。

でも、そうした本は何冊かよむともうじゅうぶんなわけで、
おもしろさやおどろきが、だんだんすくなくなってくる。
この本が、そうした一連のものでなければいいが、と
ちょっと心配しながらよみはじめる。

大丈夫だった。
本書は、インドのなかにあるチベット文化をさがしての旅であり、
あまりしられていない北インドの田舎をめぐる。
「沈没」というより「探検」という要素がこゆい。
気にいった町でぐずぐずするはなしよりも、
時間と労力をかけないとたずねられない場所の報告がわたしのこのみだ。
「村人に触れてはならないという独特の掟を持っている」
というマラナ村のはなしには、すごく興味をひかれる。
とざされた山のなかにあり、たどりつくまでの山道がそうとうきびしいときくと、
自分でもなんとかマラナ村へでかけたくなってくる。
辺境探検家・高野秀行さんのやり方は、だれにでもできるものではないが、
蔵前さんの旅なら、やる気さえあればわたしにもなんとかなりそうだ。

後半は「カトマンズでスケッチ」というエッセイで、
スケジュールをなんとか調整してのみじかいスケッチ旅行についてかかれている。
わたしは絵がかけないけれど、
「自分にとっていちばん驚きだったのは、
絵を描いているとのんびりするということだった」
という蔵前さんの気づきに共感する。
普段あまりやらないことをするのは
(たとえば花の水やりだったり、
あるいてかいものにいくことだったり)、
意外と新鮮で、気分をかえるものであることに似ている気がする。
旅行にいったからといって観光だけをするのではなく、
いつもとちがうことをためしてみるのもまた旅行のおもしろさだ。

posted by カルピス at 23:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする