2012年05月03日

『アンジェリーナ』(小川洋子・角川文庫)

『佐野元春と10の短編』という企画からうまれた短編集だ。
佐野元春の曲をきいてイメージすることから、
小川洋子さんらしい独特の雰囲気をもったものがたりにしあげている。

こういう企画をうけられるぐらいだからあたりまえだけど、
小川さんは佐野元春のファンなのだそうで、
実際やり初めてみると、これほど楽しんで書けたことはありませんでした。毎月一曲を選び、それを繰り返し聴いているうちに、どんどん物語が湧き上がってくるのです。

とあとがきにある。

わたしにとっての佐野元春は、
ベストアルバムをひとつiPodにいれているだけにすぎず、
とくにすきなアーティストというわけではない。
『アンジェリーナ』におさめられたいくつかの曲は、
そのベストにもおさめられいたので
あらためてきいてみる。
歌詞と短編にはどこにもつながりがなく、
どうしたらこういうものがたりをイメージできるのか、
小川さんの想像力に感心するしかない。

小川さんはデビューするまえから
村上春樹の本をよくよまれていたそうで、
この本にもその影響がかなり色こくあらわれている。
とはいえ、それぞれに不思議な魅力のあるものがたりであり、
いかにも小川洋子、というものにしあがっていることもたしかだ。

きのう歯医者さんにいったときにも、待合室でこの本をひらいた。
8つ目の短編「クリスマスタイム・イン・ブルー」をよんでいると、
そこにでてくるすてきな女性が
歯科医院での治療中に、麻酔のショックで急死してしまった。
なんで、よりによってこれから歯の治療をうけるというときに
こういうものがたりにであったのだろう。
じっさいに診察がはじまると、
親しらず歯がとなりの歯にわるい影響をあたえていて、
麻酔をしての治療が必要、ということになった。
小川さんの短編をよんだばかりだったので、
麻酔にはあまり気がすすまない。
時間がなかったこともあり、治療は来週にまわしてもらった。

歯科医での診察のまえに
歯科医で急死する本をよむ確立はかなりひくいはずだ。
小川洋子さんとの不思議な縁がおかしかったので、
このはなしを看護婦さんにつたえると、
複雑な表情で、でもわらっておられた。

posted by カルピス at 23:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする