角田光代の短編集。
あんまりおもしろくないなーとよみすすめていると、きたきた。
5編目の「マザコン」がいかにも角田光代だった。
妻に「あなたはマザコンよ、正真正銘の」といわれた「ぼく」は
そんなことをいわれるのは心外なので
なんとか反論をこころみる。でも、ぜんぜん歯がたたない。
あのね、そうやってぜんぶ言葉にしようとするところ。そこがマザコンだって言ってんの。
だいたいさあ、さっきの話、コーヒーを買い忘れた理由をなんでいちいち説明すんのよ。私はあなたの母親じゃないの。あらまあ、そうだったの、それならコーヒー忘れてもしょうがないわねえ、って言ってほしいわけえ?
男はだれでもマザコンといわれるのは不本意であり、
そうでないことをなんとかみとめさせようとするだろう。
でも、そうやって、やっきになるのがマザコンの証拠だとか、
とにかくあなたはマザコンなの、とか、
いったんいわれると、それをくつがえすのはなかなか大変そうだ。
男にとってのがれようのない「殺し文句」であり
いわれたらもうそれでおわり。勝ち目はない。
「WEB本の雑誌」で杉江さんが
女性の書店員さんと角田さんの著作の話をしていると「女子の嫌な部分が描かれるからキツイ時もあるのよ」と言われることもあるが、私はそのキツイところが大好きだ。女子に限らず、人間なんてそんなもんだろう。
とかいている。
「あなたはマザコンよ」といいつのるときの角田光代は
女のいやらしさ全開で、そしてすごくたのしそうだ。
わたしはこれまで角田光代のかく
「女子の嫌な部分」がどこかわからなかったけど、
「マザコン」をよんで納得がいった。
これはそうとうきつそうだ。
でも、杉江さんとおなじように、
そういうところもふくめて
角田光代のかく本はどれもたのしくよめる。