北上次郎と大森望による真剣勝負の書評対談で、
「読むのが怖い」シリーズの第3弾。
前作から4年ぶりの刊行だという。
帯には「日本一わがままなブックガイド」とある。
おそらくそれは、よんだ本の内容をすぐにわすれ、
「どんなはなしだったけ?」と相棒の大森さんに
なんどもたずねる北上次郎のことをいっているのだろう。
そんなふうに、いいかげんなところもあるけれど、
一流の書評家としておさえるところは2人とものがさない。
たとえば北上次郎が「書こうとしていることと、文体があってない」というと、
大森望はそれもさいしょからみとおしていて、
(たしかによくそうしたことがいわれているけども)
この小説に関しては、一人称による語りを武器にしているのがすごい」
と全体をみとおして発言することができる。
この2人は、たくさんの作家について、
これまでのおもだった作品をよんでおり、
それと今回とりあげた作品とを相対的に比較することができる。
もちろん、出版業界全体のなかでの位置づけも、
◯◯賞とのからみもすべてわかっている。
「この10年間のアメリカのSFの中では、
もっとも重要な長編ですね」(大森)
なんてわたしもいってみたいものだ。
それにこの本には、本にまつわる歴史的なうごきが
ふたりのあいだでさらっとおしゃべりされている。
大森「その昔、ハヤカワ・SF・シリーズ」っていう、
ポケミスのSF版みたいな業書があって、
背表紙の色から「銀背」と呼ばれていたんですが、
それが37年ぶりに復活したんですね」
北上「そもそも銀背って何冊でたの?」
大森「300ちょっとですね(中略)
ポケミスより全然少ないですよ。
出ていた期間も短いし。
1957年から1974年まで」
こんな会話を、このふたり以外にできるひとは
あまりいないのではないか。
また、老化がすすみ、固有名詞が
しばしば絶望的にでてこないわたしにとって、
おふたりの記憶力(北上さんは「まだら」だけど)は驚異的だ。
作家と本の名前がスラスラと会話のなかにあげられていく。
もっとも、いちいち「ほら、あの、なんていったっけ?」
なんてやっていたら、書評対談にならないこともたしかだ。
本屋大賞にノミネートされた本が、
北上さんにひどくけなされている。
大森さんも「小説として最低限のことはやっていると思いますよ」
「へたなりにきちんと説明されているし」と
フォローなのかおいうちなのか、
そんなにたかい評価をあたえてないのがわかる。
『謎解きはディナーのあとで』については、
「思ったほどね、ひどくない!(笑)
久々にCをつけるレベルかなあと思ったら、
結構小説になってるよ、これ。
本屋大賞にふさわしいかどうかは、別の問題としてね」(北上次郎)と、
これまたほめているのか、すくっているのかわからない。
前回の直木賞を受賞した本の帯にあった
394作という応募作の中から
見事大賞を仕留めた作者の恐るべき強運と
デビュー後の変貌に期待したい
というコメントが紹介されている。
「運しか評価してない」のがおかしいからだ。
ブックガイドとしてこの本はとてもありがたい。
これまでによんだことがない作家の本を、
15冊ほどをリストにあげた。
あたらしい世界がひらかれることを期待している。