「web本の雑誌」で高野秀行さんが連載している
『謎の独立国家ソマリランド』に、「知られざる覚醒植物カート」
としてソマリランドのカート文化が紹介されている。
カートとは、ソマリランドのひとがこのんで口にする植物で、
ここちよい覚醒作用があるそうだ。
午後になるとソマリランドのひとたちは
高野さんいうところの「カート居酒屋」で「カート宴会」をひらくので、
いちにちの半分は仕事をしていない状況になる。
カートをたべるとどうなるかというと、
「体の芯が熱くなり、意識がすっと上に持ち上がるような感じがする。
昔は合法だったタイのドラッグ『ヤーバー』
(覚醒剤、アンフェタミン)に似ているが、
ある意味ではもっと強い効き目がある。
カートにはアンフェタミンにはない
『人恋しさ』という効果があるからだ。(中略)
近くにいる人に、思いついたことをなんでもかんでも話しかけたくなる。
言葉がよく通じないとか、こんなことを急に訊いたら
相手が嫌な顔をするんじゃないかという、
素面のときの躊躇が春の雪のように溶けてなくなる。
向こうもそうだから、あたかも国籍や民族や立場の違いなどが
一時的に消えてなくなるような錯覚に陥るのである。
酒みたいだが、酒とちがうのは
カートでは意識の明晰さが失われない点だ。
車の運転手が眠気覚ましと集中力持続に使うことからも
それはわかるだろう。そして記憶を失うこともない」
覚醒剤や麻薬などのドラッグをイメージすると
すさんだ光景になるが、
カートはもっとのんびりしたものみたいだ。
「胃から消化吸収するため、
効き始めるのに30分から1時間もかかる。(中略)
効くまでは頑張って食わねばならない。
この時間帯は髭面のいかつい男たちが
牛か馬のように一心不乱に葉っぱをかじる。
相当に異様な光景なので、初めての宮澤(カメラマン)は
『これがほんとの草食系男子だね』と驚き呆れた」
「草食系男子」がうまい。
男たちががんばって葉っぱをかじる風景を想像すると、
ドラッグで生活をめちゃくちゃにするのではなく、
平和のために草をはんでるようでおかしくなる。
領土問題がややこしくなっているいまの東アジアに、
カートのような平和ドラッグがあればいいけど。