2013年01月08日

作家志望者をめぐる状況が興味ぶかい『売れる作家の全技術』

『売れる作家の全技術』(大沢在昌・角川書店)

作家になりたいひとを対象に、
大沢在昌氏が1年間にわたって講座をひらく。
応募があった64人をさらにしぼり、
12人がこの講座に参加した。

『売れる作家の全技術』というタイトルからわかるように、
これは技術についてのはなしだ。
技術は没個性であり、ある程度の訓練をつめば
だれにでも習得可能なのが「技術」だ。
33年の経験から大沢氏があみだした
最低限必要な技術をつたえながら、

「技術は教えられるが、
才能は教えられない」

ともちゃんとかいてある。
どんなに努力をかさねても、
才能がなければあきらめるしかない。
読者がついて、本がうれなければ、
作家でありつづけるわけにはいかない。

大沢さんは作家になることについての
きびしい現実を受講生につたえる。
200の新人賞があるとして、
それぞれに300人が応募したとすると、それだけで6万人。
そこからデビューしたひとのうち、
何人が5年後に生きのこっているだろうか。
自分がデビューしたころよりもはるかに出版市場は縮小しており、
以前よりも生きのこりをかけた競争がきびしくなっている。
そして、大沢さんはなんどもくりかえして

「作家はデビューすることよりも
あり続けることのほうが
はるかに大変である」

「受賞してからが本番」

とつたえようとする。
デビューしたらもうあとがない。
あとは、のこりの人生をずっと作家でやっていくしか選択の余地はない。
いそいでデビューすることよりも、
じっくりちからをたくわえてからでもおそくはないと
なんども強調されている。

まったく、作家になるのはたいへんそうだ。
それでも、どうしても作家になりたいひとが
たくさんいるのだから、
小説をかく、という仕事はよほど魅力があるのだろう。
自分で作品世界をつくりだし、
それを読者がよろこんでくれ、
出版界からも評価される、というながれは、
しかしよほど実力のある作家でしかのぞめないのが現実だ。
それを覚悟したうえで、
作家をめざすよう大沢さんはもとめている。

小説をかくうえでの技術だけでなく、
「デビュー後にどう生き残るか」という講座も用意されており、
編集者とのつきあい方や「仕事の依頼を断るな」など、
ほんとにきめこまかな点にもふれてある。
これで作家として生きつづけらないようなら、
むいてないとあきらめるしかない。

これまで大沢さんの作品をよんだことがないわたしにも、
この本はすごくよみやすく、わかりやすかった。
大沢さんのことばえらびが適切なせいだろう。
『新宿鮫』をよんでみて、どれだけ読者をたのしませてくれるか
たしかめたくなった。

posted by カルピス at 22:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする