きのうの朝日新聞は第一面で「腰痛2800万人」とつたえている。
患者数のおおさとともに、この記事でおどろいたのは、
腰痛の8割が原因不明ということだ。
そして、治療法としてよく耳にする
マッサージや牽引に効果がないというのだから、
わたしがふつうにかんがえていた腰痛とは
いったいなんだったのだろう。
高野秀行さんが著書『腰痛探検家』のなかで、
腰痛の治療法をネットで検索したら、
あまりにもおおくの数がヒットしてしまい
つかいものにならなかった体験をのべている。
腰痛の世界は「密林」であり、
いちどまよいこむと、かんたんにぬけだすことはできない。
『腰痛探検家』はその「密林」にまよいこんでしまった
探検家の記録であり、結果からいうと、
なにがよかったのかわからないまま
いつのまにかいたみになやまされなくなったそうだ。
町のあちらこちらに腰痛治療をうたった
クリニックやら治療院が点在し、
その治療法も「密林」にふさわしく
針や民間療法など、おびただしい数にのぼる。
それらがほんとうのところでは効果に根拠がなかったなんて、
きっと2800万人のうち8割のひとがずっこけたにちがいない。
効果がなくてもワラだろうがなんだろうが
つかまりたいひとにとっては
なんとかいたみをやわらげようと
評判の治療法をたずねないわけにいかない。
安静がいちばん、とある先生がいえば、
運動も大事、というかんがえ方もあるし、
精神的な影響がつよい、とするみかたや、
ストレスが原因です、というひともいる。
それぞれのひとが、それぞれの腰痛になやんでおり、
ある治療法に効果がなくても、
なにか自分にあった治療法があるはずだと
いろいろためしてみるので、
腰痛世界の密林はますますふかくなっていくのだろう。
すこしまえに、英会話とダイエットがよくにていることに気づいた。
いろんな方法があるけれど、
決定的といえるものはまだでていない。
「◯◯週間で効果あり!」
「楽々」
「いちにち◯分でOK」と
英会話もダイエットもおなじようなコピーで宣伝している。
ある方法が自分にあってなくても、
べつの方法ならうまくいくかもしれないと、
たよれる地図をもたずに
おおくのひとが森だか密林だかにはいりこんで
かんたんに遭難してしまう。
いちどまよいこむと、かなりのお金とエネルギーをつぎこむことになり、
だからといって目的をはたせる確率はきわめてひくい。
腰痛もいっしょだ。
魑魅魍魎の世界で、どの方法がただしいかなんて
だれにもわからない。
ひとの数だけそのひとにあった治療法がある(かもしれない)。
いったん森にからめとられると、治療への情熱がさめるまでまつしかない。
熱がさめてしまえば、事態はあんがいそれなりの場所におちついており、
いったいあの試行錯誤はなんだったのかといぶかしくふりかえる。
朝日新聞の記事が目あたらしかったのは、
原因がわからない腰痛がおおいこと、
マッサージの効果は疑問、と
はっきりかいたことだ。
わたしたちが「腰痛」といっているものは
なにか特定のことが原因でおこるいたみではなく、
あらゆることがひきがねになっておこる
ある種の状況なのだろう。
なにしろ8割の原因が不明というのだから
予防も対応もひとすじなわではいかない。
腰痛もまた生活習慣病のひとつみたいだ。
なにしろ、「強く推奨」される治療法が
「考え方の隔たりを直し、
行動の仕方を変える
認知行動療法」
というのだから、腰痛がでなければ気づかなかった
「考え方の隔たり」をなおすには、
いろいろなことを根本からみなおしていくしかないのだろう。