『眼・術・戦 ヤット流ゲームメイクの極意』
(遠藤保仁✕西部謙司・株式会社カンゼン)
W杯南アフリカ大会をめぐるはなしもおもしろかった。
大会直前となって調子をおとした日本代表は、
ほかの国とはべつのプレッシャーがかかっていた。
「選手たちが恐れを感じたのは、
日本サッカーの未来に対してだ。
負ければ日本のサッカー人気が低迷し、
ダメになってしまうのではないかという恐怖である」
と西部さんは分析している。
そして、大会の直前にそれまでのポゼッションのサッカーから、
守備的なスタイルへときりかえて、
ギリギリのところで結果をのこすことができた。
しかし、遠藤選手はたとえ3敗してもいいから
「普通に戦いたいんですよ」とはなしている。
「スタイルを変えてまで勝ちたいかといえば。
僕は、貫いてボロ負けしたほうがいいと思っている
ほうなんですよ」(遠藤)
2008年のクラブW杯で、
遠藤選手のいたガンバ大阪は、
マンチェスター=ユナイテッドと準決勝でたたかい、
3−5という「うちあい」を経験している。
ガンバ大阪のサッカーをしんじて
そのスタイルをつらぬいたからこそ、
「あの」マンUから3点がとれた。
「せっかくW杯に行っても、
毎回守備的にやっていたら上にはいけないとおもうんですよ。
そもそも、W杯で戦い方をガラリと変えてしまうのでは、
それまで何のためにやってきたのかと」(遠藤)
わたしもまったくこの意見に賛成で、
それだけに南アフリカ大会は
複雑なおもいで日本の「勝利」と「グループリーグ突破」を
みていたものだ。
では、どうしたら日本のサッカーとよべるスタイルが根づくのか。
西部さんはネルシーニョ監督へのインタビューを引用している。
「相手がアジアでもヨーロッパでも、
日本は自分たちの基準を変えるべきではない。
良い成長をするには大事な要素です。
日本人は大きな目標を持つべき時期に来ています」
日本はまだサッカーの歴史があさく、
南アフリカ大会で、スタイルをかえた代表チームを
肯定するひとがおおかった。
まだ日本のスタイルとよべるものがないからこそ、
内容よりも結果に満足したのだろう。
もしブラジルがおなじことをやったら、
国じゅうのサッカーファンからめちゃくちゃたたかれるはずだ。
ポゼッションサッカーが日本のスタイルだ、とするなら、
アジア予選だろうが、本大会だろうが、
基準をかえずにプレーする時期にきているという
ネルシーニョ監督の指摘は、
遠藤選手の気もちともかさなっている。
2012年の秋におこなわれたヨーロッパ遠征で、
日本はフランスに1−0、ブラジルに0−4という結果をのこしている。
ブラジル戦では、ボコボコにされながらも、
自分たちのサッカーがつうじる手ごたえをえた選手がおおい。
いまの日本は、ブラジルが相手だからといって、
ひいてまもろうとかんがえる代表チームではなくなっている。
わたしがすきなのも、そんなサッカーだ。
W杯ブラジル大会での日本代表が、これからあゆむべき
日本サッカーの基準をしめしてくれることを期待している。