『25時』(デイヴィッド=ベニオフ・新潮文庫)
よんでいて、なかなかはなしにひきこまれない。
でも、あの『卵をめぐる祖父の戦争』をかいた
ベニオフのデビュー作だ。
そのうちドッカーンとはまるだろうと、我慢してよみつづける。
何人かの主要な人物が、章をおってすこしずつ登場してくる。
いったいなにがおきたのか、これからなにがおこるのか、
よくつかめないままはなしがすすんでいく。
ようやくこの本は、主人公であるモンティが、
つぎの日から刑務所に7年間はいるという、
その前の晩のできごとをえがいているのがわかる。
刑務所といっても、日本の刑務所とちがい(くわしくはしらないけど)、
リンチとレイプが公然とおこなわれるような、まったくべつの世界だ。
ぶじに7年をおえられない場所であることを
だれもが理解している。
「7年」という限定された期間とはいえ、
刑務所をでたからといって、
もとの状態にもどることはぜったいにない。
7年間は、そのまま人生の「おわり」を意味する。
そんな世界であすから7年をすごす男を
どうなぐさめればいいのかだれにもわからない。
ましてや、モンティは麻薬の売人であり、
だれかにはめられて罪をかぶったとはいえ、
自業自得であることもまちがいない。
モンティはなんどもなんども、くりかえし
25時間目をかんがえる。
どうすればこんな目にあわずにすんだのか。
いまからでも、なんとか刑務所ゆきのバスにのらないですむ
いい方法はないのか。
しかし、モンティはながく裏の世界で生きてきた人間だ。
いまさら仕事仲間やボスをうらぎることはできない。
どうにもならない状況にいらだちながら、
だれもが25時間目をまつしかない。
さいごの朝、家をでるときに
モンティは恋人のナテュレルとしずかにわかれる。
「彼は彼女に自分をつかんでほしいと思う。
ふたりが隠れられる、誰にも見つからない場所を知っていると
囁いてほしいと思う。
彼のあとを追い、オーディスヴィル(刑務所のある町)で仕事を見つけ、
毎週面会に来ると約束してほしいと思う。
七年など一夜の悪夢みたいなもので、
ふたりの新たな人生はすぐそこまで来ており、
気がついたときはわたしの腕に抱かれている、
と言ってほしいと思う。
しかし、ナチュレルは何も言わない。
モンティも何もいわない。
最後に彼はうなずき、彼女に背を向けると、
うしろ手にそっとドアを閉める」
さみしすぎるわかれだ。
冒頭からいっきに読者をひきつけた
『卵をめぐる祖父の戦争』とちがい、
この作品はじわじわとはなしをすすめ、
おわりごろになってようやく主要な人物の
ひととなりがつかめてくる。
デビュー作でながら、新人作家がよくここまで全体をみとおした構成を
かきおおせたものだ。
本のまんなかあたりからストーリーにひきこまれ、
なんとかうまくいってほしいとねがいながらラストをむかえた。
この作品は、スパイク=リー監督のもとで
映画にもなっている。
ラストシーンが映画ではどうあつかわれたかを
しりたくなった。