ピピのスタッフから、カニグズバーグさんがなくなったことをしらされる。
カニグズバーグさんは、わたしがいちばん「お世話」になった児童文学作家だ。
清水真砂子さんの本に紹介されていたのをきっかけに、
カニグズバーグさんの作品をよむようになった。
カニグズバーグさんは
すぐれた児童文学作品におくられる
ニューベリー賞を2回受賞している。
1回目は1968年に『クローディアの秘密』で、
2回目は1997年に『ティーパーティーの謎』で。
1回目の受賞では、
おなじ作者の本(『クローディアの秘密』と『魔女ジェニファとわたし』)が
受賞をあらそっためずらしい事件として有名だという。
清水真砂子さんのようなふかいよみかたができなくても、
カニグズバーグさんの本は独特な魅力があって、
なんどかよみかえすことになる。
わたしがすきなのは『800番への旅』と『ドラゴンをさがせ』。
『800番への旅』は翻訳についてあまり評判がよくなく、
2005年に改訳版がでている。
でも、指摘されなければわたしはぜんぜん気にならなかった。
訳のよしあしが作品にあたえる影響はもちろんおおきいだろうが、
それがすぐれた作品であれば、決定的に魅力をそこなうわけではないという
例かもしれない。
ラクダをつれて旅をするお父さんに
しばらくのあいだあずけられることになった少年が、
はじめは父親をうっとおしくおもいながら、
だんだんとだいじなことはなにかに気づいていく。
こうかくとすごくベタだけど、
旅先でであう父親の仲間がまたすばらしく、
仕事と生活との関係は、なんてかんがえたくなってくる。
すてきな大人がでてくるのもカニグズバーグさんの本の特徴で、
わたしがとくに気にいっているひとは
『Tバック戦争』にでてくるバーナーデットだ。
自分のところにあずけられたクロエという少女にたいし、
うわべだけの親切なうけいれはしない。
いっけんつきはなすような態度をとりながら、
生活することの大変さやたのしさを
自分の仕事をつうじてつたえていく。
つたえよう、とバーナーデットが親切におもうわけではない。
クロエのほうにそれをくみとるちからがあれば、
バーナーデットの生き方がクロエに影響をあたえる。
親がはたすことのできない役割をになってくれる、
こんな大人がまわりにいれば、
子どもたちはずいぶんすくわれるだろう。
むすこがちいさかったころのよみきかせで、
『クローディアの秘密』をよんだことがある。
クローディアと弟のジェイミーが、
メトロポリタン博物館へ家出するはなしだ。
はじめて「家出」という冒険をしったむすこは、
そのあとしばらく家出に関心をしめし、
学校の先生にも家出がしたいとはなしていたそうだ。
わたしもまたいっしょに家出をする相棒としてさそわれたから、
むすこのかんがえる家出はなんだったのだろう。
清水真砂子さんは、実用書として
カニグズバーグさんの作品を評価しておられる。
生きるすべとして役にたつ、というよみかただ。
たしかに、わたしにはカニグズバーグさんの本によって、
いくらか楽に生きられるようになった。
ふだんの生活のなにげない場面で
カニグズバーグさんの作品をおもいだす。
料理をしていて、あれもこれもとあわたたしくうごいてしまうときには、
いちどにひとつのことしかしない家政婦さんのおちつきを(『13歳の沈黙』)、
いやな相手にしかえしをするときには
『魔女ジェニファとわたし』にでてくるささやかないじわるをおもいうかべ、
自分のいたらなさを肯定させてもらう。
こざかしい知識をひけらかしたくなると、
『800番への旅』にでてくる少年をおもいだして
自分をいましめる。
こうしたほんのちょっとした生き方のコツを
カニグズバーグさんの本はおしえてくれた。