『未来少年コナン』の特集本をわたしはもっている。
まっくろな表紙で(通称「黒本」というらしい)、
タイトルに「未来少年コナン」とかかれているだけだ。
表紙全体に、宮崎さんの絵コンテによる登場人物やメカが
しろい線でうかびあがっている。
1979年12月1日に初版第1刷発行、
1980年4月15日に第2刷が発行されたもので、
発行はアニドウ(FILM1/24編集室)となっている。
裏側には、かった当時の3800円という値札がはってある。
A4版328ページのぶあつい本だ。
コナンのテレビ放送にうちのめされ、
コナンについてならなんでもしりたいとおもっていたわたしが、
たまたま本屋で手にとったのがこの特集だ。
なんというありがたいであいだったろう。
わたしはこの本によって宮崎駿をしったのだ。
内容は、宮崎さんをはじめとするスタッフへのインタビューであり、
演出 :宮崎駿
作画監督:大塚康生
プロデューサー:中島順三
原画:森やすじ・河内日出男・篠原征子・富沢信雄・村田耕一・才田俊次
友永和秀・山内昇寿郎・大島秀範・北島信行
美術 :山本二三
色指定:保田道世
音楽 :池辺晋一郎
声優 :小原乃梨子・吉田理保子・山内雅人・家弓家正・信沢三恵子
青木和代・永井一郎
という方々へのインタビューがおさめられている。
人気にとびついたメディアが
適当にこしらえた「特集」などではなく、
どうにかしてコナンと宮崎さんのすごさを
世の中にしらしめたい、というスタッフのおもいがみちている。
なかでも32ページにわたる宮崎さんへのインタビューが圧巻だ。
質問する側のスタッフは、宮崎さんとコナンにたいしての
おもいいれがつよく、
宮崎さんのかんがえ方をうまくひきだしている。
発行人の富沢洋子さん(当時)は、
このコナン特集についてつぎのようにふりかえっている。
『コナン』の特集をやろうというのは
NHKで第1話の試写を見た時から漠然とありましたが、
設定を見、絵コンテを読み、レイアウトを見、
原画とその修正 画や参考ラフを見、動画を描き、
TV放送が回を重ねるうちに、それは確信になっていました。
全てのものからあふれてくる宮崎さんの熱い思いに触れると同時 に、
今までずっと好きだった『ホルス』や
『長靴をはいた猫』や『どうぶつ宝島』、
面白さに夢中になって見た『[旧]ルパン』や『赤胴鈴之助』、
その世界そ のものに憧れた『パンダコパンダ』と『雨ふりサーカス』、
場面設計やレイアウトの見事さに驚嘆した
『ハイジ』『三千里』『赤毛のアン』等々で
小出しにされ ていた宮崎駿という才能の点と線が、
『コナン』によってひとつに繋がったのです。
わたしもまたここにあげられた作品がだいすきだった。
『長靴をはいた猫』『ルパン三世(旧)』『アルプスの少女ハイジ』の
どこがわたしをとらえるのだろう。
これらの作品のすべてに、
宮崎さんは中心的な存在としてかかわっているのをしったのは
ずっとあとになってからだ。
そして、宮崎さんがはじめて監督をつとめられたコナンをみて、
疑問は確信となった。
わたしは宮崎さんの演出にこころをうごかされてきたのだ。
黒本『未来少年コナン』のなかで宮崎さんは
「誰もが、やさいい心になれて、
この人のために一生懸命になってあげたいな、
という人に出会いたいと願っているんじゃないかなぁ。
チャップリンの映画は全編それですね」
「(チャップリンの映画は)憧れの女性が現れたら
その女に尽くす事によって
自分が高められるというあの人の願望の表れで、
それが映画全部を貫いてるんですよ。
あの映画は女の子に対するひたすらな
憧れと優しさを描いているとおもうんです」
とはなしておられる。
わたしがコナンにひかれるのは、
どうやらチャップリンとおなじ気もちが関係しているみたいだ。
この本にうつっている宮崎さんは
まだ40歳にもなっておらず、
髪はくろく、ひげものばしていない。
青年ともいっていいこの人物が、
それからどんな作品をつくっていったか。
コナンは、いくつかあるおおきな節目のうちのひとつだ。