2013年06月10日

なんどよんでもおかしい『負け犬の遠吠え』

『負け犬の遠吠え』(酒井順子・講談社)

ちょっと参考に、とよみはじめるととまらない。
この本について、もうなんどもかいてきたけど、
よむたびにわらえるので、また紹介したくなる。
この本が画期的だったのは

・「負け犬」という、ふるくてあたらしい生物の発見
・結婚としあわせは関係ないことをあきらかにした

という2点にしぼることができる。
おもに都会でふえつつある負け犬の存在を、
それまで社会はどうとらえていいか判断しかねていた。

「かつ」とか「まける」ということばに
ひとは敏感に反応するので、
この「負け犬」というネーミングは
出版当初おおくの拒否反応をうんでいる。
「結婚してないけどわたしはまけてない」
というやつだ。
そこをあえて「まけました」とお腹をみせることで
「勝ち犬」たちを議論のテーブルにつかせ
「負け犬」現象を整理するのに成功している。

この本の構成は
・本書を読まれる前に
 で「負け犬」の定義と、この本のルールをあきらかにしたのちに、

・負け犬発生の原因
・負け犬の特徴
・負け犬の処世術
・負け犬と敗北

と負け犬の心理と生態にふかくせまっている。

そして
・負け犬にならないための10ヶ条
・負け犬になってしまってからの10ヶ条
という予防と対応までついているという
ほんとうにいたりつくせりの入門書であり実用書だ。

なんといってもわらえるのが
「負け犬にならないための10ヶ条」で、

・不倫をしない
・「・・・っすよ」と言わない
・腕を組まない
・女性誌を読む
・ナチュラルストッキングを愛用する
・長期的視野のもとで物事を考える

等々、「不倫をしない」以外は
酒井さんでないとおもいつきそうにない。
負け犬がこれ以上繁殖しないために、
わたしのすきないくつかを紹介したい。

まず、なぜ腕をくんではならないのか。

「腕組は、『相手を警戒している』『自分のことは自分で守る』
といった意思を感じさせる行為です。(中略)
勝ち犬を目指す人は、
『誰か、この腕をつかんでどこかに連れて行って〜』
という意思が明確に伝わるように、
腕は常にフラフラとさせておかなくてはなりません」

「女性誌を読む」は
もちろん「JJ」「VERY」「STORY」といった
光文社系でなければならない。

「勝ち犬女性誌が世の女性達に教えようとしている最も重要な問題は、
『疑うな』
ということ。
『私はこのままでいいのか?』
『本当の自分って?』
などという、自分以外の人間には何ら意味を持たぬ疑問を抱いて
うしろをふりかえったり考え込んだりせず、
『夫と子供とお金とおしゃれ』を得ることイコール幸福、
ということを信じて疑わない姿勢を持つ。
何でも欲しがる現代女性に、ある意味で『足るを知れ』
ということを教えようとしているのが、
勝ち犬系女性誌なのです。(中略)
娘を持つ親御さん達は、高校生くらいから『JJ』などを与え、
危険な負け犬思想に汚染されないようにするのが
望ましいでしょう」

「ナチュラルストッキングを愛用する」は

「『私は普通の人間です』ということを、
世に知らしめてくれるのです。
その普通さというのは、エロさでもあります。(中略)
女の普通さ・エロさは、日本男児にとって
米のメシのようなものなのです。(中略)
ナチュストファッションは、
しかし決してラクなものではありません。(中略)
それらの気持ち悪さや身体の変形にも
耐えるくらいの気概がなくては、
勝ち犬になどなれないのです」

「長期的視野のもとで物事を考える」
はまとめにもなっている。

「何とかして結婚しようとする女性は、
時にその手練手管ぶりばかりが悪目立ちしてしまうものです。
が、彼女達は人間として当然のことをしているまで、
と言うこともできる。(中略)
良い相手と結婚をするためにどんな手練手管を使おうと、
それは経営者が企業戦略を練るのと同じ。(中略)
成功した経営者は、やっていることが汚いわけではありません。
ただ、現状と未来とは見据えて冷静に戦略を立てただけ。
『あっ、今はコレが流行ってるからコレを仕入れよう!』
と、せいぜい一ヶ月くらいのことしか考えられないダメ経営者とは、
大きく異るのです。
つまり勝ち犬とは、安定した老後を得るために、
ナチュラルストッキングをはき続けることができる人のことなのです。
『今すぐラクしたい』『明日、楽しいことをやりたい』
『日々を刺激的に』という子供のような欲望のままに生きるのではなく、
いかに遠くまでを見渡すことができるか」

「負け犬になってしまってからの10ヶ条」
ですきなのは

・落ち込んだ時の大処方を開発する
・突き抜ける

の2つだ。

「落ち込みは周期的なものであり、
そう長くはつづかないことを
経験を積んだ負け犬は知っている。
しかし頭痛と同じく、いずれ去るとはわかっていても、
落ち込みを放置しておくのは嫌なものです。
バファリンのように即効性のある落ち込み対処法を、
自分なりに開発しておくと、
イザという時に安心です」

「突き抜ける」もまた
まとめともいうことができる。

「もう、ここまできたら下手に何かを変えるより、
行くところまで行くしかないじゃん。
突き抜けた先にはきっと、
別の世界が広がっているハズ!
さらに上を目指せ!(中略)
突き抜けた先には、もしかしたら何も無いかもしれません。
が、せっかく負け犬になったのだから、
たとえ奇人変人と言われようと、
途中で力尽きて倒れようと、
勝ち犬には決してできない突き抜け方をしてもいいのではないか」

この本の世界をなによりもよくあわらしているのは
表紙の「負け犬」氏だ。
知的でおっかなそうで、
なにやらいろんなことをかんがえていそうで。
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posted by カルピス at 10:59 | Comment(0) | TrackBack(0) | 酒井順子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする