2013年09月08日

『雑司ケ谷R.I.P.』(樋口毅宏・新潮文庫)「お金を払って読んでくれた人こそ読者です」に共感する

『雑司ケ谷R.I.P.』(樋口毅宏・新潮文庫)

『さらば雑司ケ谷』の続編で、
泰幸会の教祖である泰(たい)が亡くなったところからはじまる。
泰のおいたちは、『ゴッドファーザー PART II』がそのままパクってあり、
どうやってのしあがっていくかがえがかかれている。
それと平行してすすむのが、泰のあとをついだ太郎が
泰幸会をまとめていく過程だ。
マイケルがコルレオーネ・ファミリーをひきつぎ、
敵をしりぞけながら、やがてすべてをうしなったように。

おもしろくよんでいたけど、
世界最強をきめる大会に出場した、石田吉蔵のつよさが
あまりにもめちゃくちゃなのでしらけてしまった。
90歳の老人なのに、
「素手のみで近代兵器を装備した軍隊一個師団の戦力に相当する」
なんていくらなんでもひどい。

「文庫本あとがきにかえて」の

「お金を払って読んでくれた人こそ読者です」

に共感したので、本編よりもこちらを紹介しようとおもう。

新刊書を図書館でかりてよむことに
「どこか腑に落ちないものを感じてい」た樋口氏は、
『雑司ケ谷R.I.P.』の奥付に
「公立図書館のみなさまへ
この本は、著作者の希望により2011年8月25日まで、
貸し出しを猶予していただくようお願い申し上げます」
と記して発売した。
樋口氏の主張は下記のとおりだ。

・自分も図書館をよく利用し、感謝もしている。
・しかし、「図書館=新刊をタダで読める場所」
 という認識はおかしくないか。
・図書館へのおねがいとして、自分の本を図書館がかうよりも、
 後世にのこす学術書をかいあげてほしい。
・一般の方へのおねがいとして、図書館は「出会いの場」だとおもっており、
 自分の本をおもしろいとおもってくれたのなら、
 いちどよんだものでも、別の本でもかまわないから、
 1、2冊でもいいからかってほしい。
・お金がないひと、生活がくるしいひとはかう必要はありません。
 そういう方こそ図書館で済ませてください。

樋口氏が
「最新刊を半年は貸し借りを控えてください」
といわずにおれなかったのは、

「私がいま小説家という職業に就いているから
言っているのではありません。
マンガ、映画、音楽など、作り手に対しての感謝は、
お金を払う行為がいちばんダイレクトで、わかりやすく、
そして堅実な方法なのです」

というかんがえからだ。

樋口氏には、お金をはらって本をよんでくれたひとへの感謝がある。
だから
「私にとって、お金を払って読んでくれた人こそ読者です。
読者よ、ありがとう。
あなたたちのおかげで僕は生活ができています。
これから読者になってくれる皆さん。
どうぞよろしくお願い致します」
というかんがえに共感できる。

樋口氏の主張はとてもわかりやすく、もっともだとおもう。
できればブックオフで、しかも105円の棚でかおうとするわたしには
耳のいたい主張でもある
(この本は、文庫化されるのをまって本屋さんでかった)。
作家の側からこうしたよびかけをしたのは
樋口氏がはじめてなのだそうで、
「なぜ諸先輩方はこれまでこの件に関して
声をあげてこられなかったのか」と
批判もされている。
「腑に落ちない」ことをそのままにしない
樋口氏のたたかう姿勢をたかく評価したい。

本はかうもの、自分がすきな作者であればなおさら、
お金をはらって感謝をつたえるのがあたりまえのことなのだ。

posted by カルピス at 11:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする