『雑司ケ谷R.I.P.』(樋口毅宏・新潮文庫)
『さらば雑司ケ谷』の続編で、
泰幸会の教祖である泰(たい)が亡くなったところからはじまる。
泰のおいたちは、『ゴッドファーザー PART II』がそのままパクってあり、
どうやってのしあがっていくかがえがかかれている。
それと平行してすすむのが、泰のあとをついだ太郎が
泰幸会をまとめていく過程だ。
マイケルがコルレオーネ・ファミリーをひきつぎ、
敵をしりぞけながら、やがてすべてをうしなったように。
おもしろくよんでいたけど、
世界最強をきめる大会に出場した、石田吉蔵のつよさが
あまりにもめちゃくちゃなのでしらけてしまった。
90歳の老人なのに、
「素手のみで近代兵器を装備した軍隊一個師団の戦力に相当する」
なんていくらなんでもひどい。
「文庫本あとがきにかえて」の
「お金を払って読んでくれた人こそ読者です」
に共感したので、本編よりもこちらを紹介しようとおもう。
新刊書を図書館でかりてよむことに
「どこか腑に落ちないものを感じてい」た樋口氏は、
『雑司ケ谷R.I.P.』の奥付に
「公立図書館のみなさまへ
この本は、著作者の希望により2011年8月25日まで、
貸し出しを猶予していただくようお願い申し上げます」
と記して発売した。
樋口氏の主張は下記のとおりだ。
・自分も図書館をよく利用し、感謝もしている。
・しかし、「図書館=新刊をタダで読める場所」
という認識はおかしくないか。
・図書館へのおねがいとして、自分の本を図書館がかうよりも、
後世にのこす学術書をかいあげてほしい。
・一般の方へのおねがいとして、図書館は「出会いの場」だとおもっており、
自分の本をおもしろいとおもってくれたのなら、
いちどよんだものでも、別の本でもかまわないから、
1、2冊でもいいからかってほしい。
・お金がないひと、生活がくるしいひとはかう必要はありません。
そういう方こそ図書館で済ませてください。
樋口氏が
「最新刊を半年は貸し借りを控えてください」
といわずにおれなかったのは、
「私がいま小説家という職業に就いているから
言っているのではありません。
マンガ、映画、音楽など、作り手に対しての感謝は、
お金を払う行為がいちばんダイレクトで、わかりやすく、
そして堅実な方法なのです」
というかんがえからだ。
樋口氏には、お金をはらって本をよんでくれたひとへの感謝がある。
だから
「私にとって、お金を払って読んでくれた人こそ読者です。
読者よ、ありがとう。
あなたたちのおかげで僕は生活ができています。
これから読者になってくれる皆さん。
どうぞよろしくお願い致します」
というかんがえに共感できる。
樋口氏の主張はとてもわかりやすく、もっともだとおもう。
できればブックオフで、しかも105円の棚でかおうとするわたしには
耳のいたい主張でもある
(この本は、文庫化されるのをまって本屋さんでかった)。
作家の側からこうしたよびかけをしたのは
樋口氏がはじめてなのだそうで、
「なぜ諸先輩方はこれまでこの件に関して
声をあげてこられなかったのか」と
批判もされている。
「腑に落ちない」ことをそのままにしない
樋口氏のたたかう姿勢をたかく評価したい。
本はかうもの、自分がすきな作者であればなおさら、
お金をはらって感謝をつたえるのがあたりまえのことなのだ。