ゆっくりおみやげをえらんでもらおうとおもった。
わたしは島根の名物に関心はないので、
なんとなく吉田くんを表紙にのせている商品をながめる。
「吉田くんの鼻くそ」とか「吉田くんアラレ」「吉田くんクランチ」など
いろいろある。
充実ぶりをファンとしておろこばしくおもう。
2階へいくと、吉田くんのマグカップが目についた。
コーヒー用のコップはもうもっているけど、
なにしろ吉田くん商品だから、かわないわけにいかない。
840円のカップをレジにもっていくと、
まさかの「鷹の爪2014年カレンダー」がならべられていた。
壁かけカレンダーと、卓上型カレンダーが
箱に無造作につめこまれている。
きょねんはたしか11月4日が発売日だった。
当日に物産館をたずねても、目のまえにカレンダーがあるのに、
予約用紙に名前をかくだけで品物をわたしてもらえなかった。
そのレアなカレンダーが、ことしはかんたんにかえるのか。
これも島根はおくれてやってきた、アベノミクス効果なのだろうか。
おもわぬできごとにうろたえていると、
レジ係の女性がはなしかけてきた。
「きょうから発売で、もうのこりがそれだけなんですよ」
「映画の上映もきょうからなんです」
「テレビ局の取材が朝からありました」と、
熱をおびた説明をしてくれる。
うれるからちからがはいるというだけでなく、
その女性も相当な鷹の爪ファンみたいだ。
彼女の熱気におされ、マグカップにくわえて、
壁かけと卓上型の、両方のカレンダーをついかってしまう。
そのままレジのちかくをうろついていると、
「東京ではもううれきれたらしいよ」
と男性客がその女性にはなしかけている。
友だちにたのまれてかいにこられたそうで、
壁かけカレンダーを2本かってかえられた。
「県外からのお客さんがかわれるのですか?」
とわたしがまたレジの女性にたずねると、
「県内も、県外も両方です。とにかくすごいです」
と、まるで自分が鷹の爪の団員みたいな返答だ。
わたしはきょねんも壁かけ型と卓上型の2つのカレンダーをかった。
しかし、根がケチなものだから、
月がかわっても壁かけカレンダーをめくることができず、
けっきょくカレンダーとしての機能をはたさないまま
棚にたたまれている。
だから、ことしは壁かけ型をかうのはやめようとおもっていたのに。
鷹の爪のキャラをみると、正常な思考をうしなってしまいがちだ。
こういうのをむかしのひとは愛とよんだ。
いまは、もうすこしへんなよび方をするかもしれない。
吉田くんについておもわず沖村さんに解説し、
ちょっとひかれてしまった。
それでもやさしい沖村さんは、わたしの顔をたてて、
吉田くんのキャラクター商品(くつした)をえらんでおられた。
それにしても、計算してきょう物産館をおとずれたわけではないのに、
発売日にたまたま2階の吉田くんコーナーにきてしまうなんて、
わたしはたしかに「もって」いる。
「いやー、☓☓選手はやはりもってますねー」
なんてスポーツの解説なんかをきくと、
なにが「もってますね」、だ、と
悪態をついていたのに、自分がその奇遇にであうと
もっているとしかおもえない。
それとも、もっていたのは沖村さんなのだろうか。
肝心の自虐コメントは
島根県民にもよくわからないものがあり、
ますます混迷をきわめている。
卓上型の9月にある「隠岐のネタ、見つかりませんでした」
って、なんのことだろう。
でもいい。
まったくの偶然から、まるで計画的にかいにいったかのように、
かんたんに鷹の爪カレンダーを手にいれたわたしは
ささやかなしあわせにひたっている。