2013年09月16日

『歩く旅の本』(福元ひろこ) すべての出来事はつながっている

『歩く旅の本』(福元ひろこ・東洋出版)

タイトルと表紙にひかれて注文する。
熊野古道を12日かけてあるいた記録で、
「熊野古道」はひとつのコースではなく、
5つの道の総称なのだそうだ。
福元さんはそのうちの「伊勢路」をあるくことにきめる。
伊勢神宮から熊野大社をつなぐ道だ。
あるく旅、というから野宿をするのかとおもっていたら、
熊野古道をめぐる旅行者むけの宿をつかうのだった。
別冊として「伊勢路」と「中辺路」のイラストマップがついているし、
本のおわりには神社や宿の連絡先までのっているので、
じっさいに自分でも熊野古道をあるいてみたいひとには
実用書としての価値もたかい。

はじめてよむ作者の本は、自分にあう価値観と文章かどうかを
心配しながらよみすすめる。
内容がよければ、たしょうへんな文章でも我慢できるけど、
それにしても限界はある。
女性のかく旅行記のなかには、
たいしたことをしてるわけでもないのに
自意識過剰ではなもちならない本がときどきある。
この本はどうだろうか。

福元さんは2年まえに、スペインのサンティアゴ巡礼路をあるいている。
そのときの体験からあるく旅のたのしさをつたえたくなったのだそうだ。
そのわりには、さみしそうな道や難所にさしかかると
びびりまくり、しりあいに電話をいれている。
グチをきいてもらったり、なぐさめてもらったり、
iPhoneのグーグルマップで情報を得たりと、
よんでいるかぎりでは、けっこう軟弱な旅行者だ。
そんなひとでもあるく旅はできる、と
自分のよわさもすべてさらけだしているともいえる。

福元さんのひとがら、そして女性ということがあるのだろう、
いくさきざきで、であうひとたちからすごく親切にされている。
それまでにあったこともない
友だちの友だちにたすけられることもおおい。
それがまたつぎのであいをはこんでくれる。
福元さんがくりかえし強調しているのは、
「すべての出逢いはつながっている」ということだ。

「2年前あの道を歩かなかったら
いま私は熊野古道を歩いていないわけで。
私の中では確実にこのふたつはつながっている。
でもそれを言ったら、カミーノに行こうと思ったのは、
3年前のアレがきっかけなわけで、そんなアレは・・・、
と要するに、子どもの頃からいまに至るまで、
すべての出来事、すべての出逢いは
全部つながっているってことか」

そして、そのであいはだれかが(たぶん神さま)
アレンジしてくれているので、
わたしたちはなにも心配しなくていい。
「ご縁がある場所には無理しなくても
自然と行けるようになっている。
行けないときはそのときは行くときじゃないということ。
だから執着する必要はない」

スペインを巡礼しているとき、
ある修道士さんにいわれたそうだ。
「あなたたちは何も準備をする必要はありません。
神様がすべて用意してくださるから、
何も心配はいりません」

本の構成は、いちにちごとに章がたてられ、
「今日のひとこと」がさいごにかたられている。

・「いつでもやめていい」と思うと
 逆にもう少しがんばろう、と思える。
・恐れに支配されると道を間違える。
・皆ほんとはいい人。
 だから人のいい部分だけを見てればいい。
・替えのズボンはやっぱり必要。

といった、その日にえた教訓やかんじたことがおおく、
ささいなこともあれば、

・決められないときは決めなくていい。

なんてすばらしい発見のときもある。

あるいているときに、福元さんはなにをかんがえているか。
「たいしたことはほとんど考えなかった」
というのがじっさいらしい。

「最初の頃は歩くのに必死であまり複雑なことを考えられないし、
慣れてきてからは自分のリズムで歩くのが心地よく、
歩いているその瞬間に一体化してしまう。(中略)
そんな中、しいて考えることといったら
『今日のお昼ご飯は何食べようかな』とか
『今日の宿は綺麗かな。綺麗だといいな』とかそのくらい」(中略)
でも、この『考えない』とか『どうでもよいこと
(軽いこと)しか考えない』というのは、
実は偉大なことだと思う。(中略)
未来のことや過去のことなんてどうでもよくて、
『いま』だけに意識が集中する。
そして、思考よりも『感覚』が敏感になる」

あるくのがすごくたのしそうなので、
自分でもながい距離をあるく旅がしてみたくなってきた。
自転車もいいけど、コースさえよければ
(ヒマラヤのトレッキングみたいなものか)
あるく旅も魅力的な旅行スタイルだ。
いくかいかないかは、さすがに神さまがきめてはくれないので、
わたしののこり時間と相談しながら計画してみたい。

posted by カルピス at 09:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする