『ザ・万字固め』(万城目学・ミシマ社)
万城目学のエッセイ集で、いつもながらめちゃくちゃおもしろい。
ひょうたんにのめりこむうちに、
自分の奥さんが「ひょうたん未亡人」
(旦那がひょうたんにのめりこんでしまい、
未亡人みたいになってしまうこと)
になってしまったはなしにはわらわされた。
もうひとつおもしろかったのが、
戦国の武将でサッカーチームをつくるとしたら、というはなし。
万城目さんは戦国武将とサッカーの両方にくわしいようで、
サッカーがすきなわたしにはとてもおもしろい話題だ。
もともとありえないはなしなのだけど、
そこをいかにも「もし××がボランチだったら」
なんておもわせるあたりがすごくうまい。
選手、つづいて監督がきまり、
それではこのメンバーをひきいて
どこのチームと対戦するか、なんてことまではなしをふくらませる。
気になったのは、このエッセイを、
サッカーにぜんぜん興味のないひとがよんでたのしいか、ということだ。
日本におけるサッカーの人気は、野球ほどたかくないし、
性別や年齢によってもファン層はまちまちだ。
サッカーは、それほど一般性のあるたとえではないかもしれない。
わたしは、戦国武将についての知識はかなりとぼしいけど、
サッカーがすきなのでとてもおもしろくよめた。
4−3−3というフォーメーションを想定し、
それぞれのポジションにもとめられる能力と
各武将がもっているイメージとをてらしあわせ、
ありえないけど、もしそうだったら、という
リアリティがいかされている。
それが細部にわたればわたるほど、
サッカーずきにとってはたまらないが、
そうでないひとがよんだときにどうかんじるのか。
サッカーを話題にすることで、万城目さんは
わざと読者の対象をせまくしぼり、
一部のひとにしかたのしめないものにした。
話題をあつかう自由さと、
ありえないばかばかしさがわかってもらえたら、
このはなしの場合は成功なのだろう。
かかれている対象が身ぢかであればあるほど
よんでいるものにはたまらなくおもしろいが、
反対に、関心がはなれればはなれるだけ
どうでもいい他人事になってしまう。
なにかをかいて、おおくのひとに興味をもってもらうには、
だれもがしっていることをテーマにしたほうがいい。
しかし、あるひとのツボにふかくささるには、
マイナーで、せまい範囲を対象にするほうが効果的だ。
「鷹の爪」の人気は、自分にしかこの魅力はわからない、
とおもわせるうまさだ。
作品のなかで島根をよく話題にするのは、
お客さんを島根県人にかぎったわけではなく、
こんなマイナーな話題を平気でふりかざす「鷹の爪」という作品の
コンセプトを主張しているからである。
島根にはあまり関心のないひとも
そのはなしのせまさをたのしむことになる。
一般うけしそうにないから支持する、というのも
ファンの心理にはある。
万城目さんのエッセイは、
かかなければいけない原稿にむかえないうちに、
たのまれもしない戦国武将のサッカーチームについて、
ものすごくリアルに想像をふくらませたものだ。
ハッとして意識をとりもどすと、すでに夜があけようとしている。
本来すすめるべき原稿が一文字もうまっていない、
というかなしい状況がオチだ。
つぎの妄想では、この侍ジャパンをローマ代表と
ぜひたたかわせてもらいたい。