2014年01月11日

『アンコール』老人になったときに、どうエネルギーを発散させるか

『アンコール』(ポール=アンドリュー=ウィリアムズ監督・イギリス)

あかるい性格の女性マリオンは、気むずかしい夫アーサーとくらしている。
ふたりとも高齢者の夫婦であり、マリオンは癌が再発し、
もうのこりの時間がかぎられている。
アーサーは、マリオンにだけはこころをひらくが、
むすこにも、マリオンがかよう合唱教室のメンバーにも
素直な態度をとることができない。

マリオンは、のこりの人生をじゅうじつさせたいと、
合唱団が出場するコンクールに参加する。
予選を通過したところでマリオンは亡くなってしまい、
のこされたアーサーは、かなしみにくれる。
なんとか気もちをとりなおし、あれほどいやがっていた
合唱団の練習にくわわって、本大会をめざすことになる。

あらすじを紹介するとわかるように、ものすごくベタなストーリーだ。
老人の合唱団が、ヘビメタや「セックスついてはなそう」
というロックな曲をうたったりするのも、よくありがちな展開だし、
仲たがいをしていた息子が、本大会のコンサートにかけつけるあたりも
みるまえから予想がついてしまう。
コンサートでアーサーがソロでうたいあげると、
会場が感動につつまれて、拍手がなりやまないのも
かなり無理があるシーンだ。
そんなにめちゃくちゃうまいわけではなかったから。
練習から本番まで、マリオンとアーサーばかりに注目があつまり、
ほかの老人たちは「その他大勢」というあつかいで、
いじわるなみかたをすれば、ふたりのひきたて役でしかない。

わるぐちばかりかいたけど、それでつまらなかったかというと、
あんがいおもしろくみれたから、映画はわからないものだ。
登場人物のほとんどが老人で、
これからどこの国も、こんなふうに老人が主流の社会になっていく。
合唱教室にあつまる老人たちは、まだまだ元気で
エネルギーをもてあましている。
女性はきかざってお化粧をしているし、
男だって服装に気をつかっており、このままおわるつもりはなさそうだ。
映画のなかにはでてこなかったけど、メンバーどうしの恋愛も
これからどんどんさかんになっていくだろう
(「セックスついてはなそう」をうたうぐらいだから)。

この作品のみどころは、
その他大勢としてえがかれた老人たちひとりひとりに、
マリオンとアーサーのようなものがたりがあると、
気づかせてくれることだ。
年をとったからといって、このままかれていくのではなく、
それぞれがもっと人生をかがやかせたいというエネルギーをもっている。
そうした老人が、少数派ではなく、
これからはもっともっとふえていくのだという、
すこしさきの社会を想像させてくれた。

老人たちに、いかに機嫌よくエネルギーを発散してもらうかは
社会全体にとっても重要な関心ごとであるし、
わたしにとっても、そろそろひとごととはいえなくなってきた。
お化粧をした年配の女性を、ケバイとか、年甲斐もなく、とか
否定するのではなく、仲間にいれてもらい、
いっしょにあそんでもらえるかは
ゆたかな老後における大切なエッセンスになるだろう。
モテたいとはおもわないけれど、きらわれない程度には
身だしなみに気をくばろう。
そんな映画だった(ほんとうか?)。

posted by カルピス at 18:43 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする