『バックパッカーパラダイス』(斉藤夫婦・旅行人)
おふたりともマンガ家である斉藤夫妻が、
2年半にわたる世界一周の旅にでる。
この本は、旅さきでのできごとを、1冊のマンガ(407ページ)にまとめたものだ。
中米からスタートし、東まわりで42カ国をめぐっている。
2月9日にラオスゆきを計画しながら、
あっけなくつぶれてしまったわたしとしては、
なんともうらやましくてしょうがなかった。
本書は、これでよむのが3ど目になるのに、
そのつどふたりの旅行を、まるでいっしょにまわっているように
たのしむことになる。
1991年の3月から1993年の9月におこなわれた旅行であり、
この本の出版が1995年なので、もう古典といっていいかもしれない。
本の「はじめに」には、食費をきりつめ、
いっさい無駄なかいものをせず、
3年間で4百万以上ためたとある。
はじめは中南米だけのつもりだったけど、
「人生長しといえど、仕事、家族、健康、お金・・・
それらの条件が都合よく揃い、長期間の旅を楽しめるチャンスというのは、
意外と少ないものかも」と、
計画を世界一周にきりかえている。
ほんとうにそうだ。旅行にでる条件はなかなかそろわない。
いけるときにいっとかないと、つぎはリタイアしてからということになり、
お金はなんとかなるかもしれないけど、健康に自信がもてなかったりする。
ぎっしりかきこまれたマンガなので、絵からつたわってくる情報量がおおく、
よんでいるだけでも旅行している気になってくる。
各ページの下には、安宿やチケットなどの「ひとくち情報」がのっていて、
時間がたてばやくにはたたないけど、よりリアリティがますおいしい情報だ。
いわゆる「バックパッカー」スタイルの旅行であり、
安宿をさがし、地元の食堂でやすい食事をとる。
贅沢はしないけど、イースター島やサファリツアーなど、
観光名所には多少お金がかかってもしっかりでかけている。
920日の旅行にかかった費用は、
ふたりあわせて500万円なのだそうだ。
おおいような、すくないような。
「徹底した貧乏旅行をしたわけではなく、
この金額はまだまだ低く抑えることが出来た」
とあるので、ヨーロッパやアメリカにいかなければ
もっとやすあがりの旅行になる。
でも、旅行は体験をかいにでかけるともいえ、
ある程度お金がかかるのはしょうがないだろう。
「長期旅行お最大最期の難問は、やはり帰ってからの職だろう」
とある。
わかいころの長期旅行は、日本にかえっても
まだそれからのこりの人生がながいので、たしかに難問といえる。
わたしが20代に体験した旅行でも、
「日本にかえってなにをする?」というのは
旅行者のあいだでわりとひんぱんに話題になっていた。
旅行ちゅうは気らくで、たのしくていいけど、
日本かえればそれぞれにきびしい現実がまっている。
とはいえ、そんな旅行にでるタイプのひとは、
いい会社につとめ、結婚してから家をたて、という、
路線からはずれているひとがおおく、
そんなに建設的なはなしにはならなかったようにおもう。
ひとりだけ、日本にかえったらコンビニではたらく、
と決意をかたったまだ10代のわかものがいて、
まわりから「えらい!」とほめられていた。
「あとがき」にある、
「どう考えても、旅は楽しすぎます」がまぶしい。
夫婦での旅行というメリットをいかして、
おふたりは、お金ではかえない貴重な体験をされたのだろう。
わたしも、2年半とはいわないから、
1年くらいゆっくり旅行にでかけたくなった。
現実的には、この本にでてきた北海道の青年のように、
農繁期ははたらいて、11月から2月までは旅行、というのが
ながつづきするやり方におもえる。
「仕事・家族・健康・お金」という条件がそろうのは、
このさきそんなにないだろう。
かずすくないチャンスをどういかすかをかんがえると、
冬に旅行というスタイルには魅力がある。
この本には、スマホはもちろん、インターネットも登場しない。
ネットで予約したり、スマホでレビューを参考に、というわけにもいかない。
いまからおもえば、むかしながらのスタイルでまわる
最期の時代だったのだろう。
いいときに、いい旅行をされたおふたりの旅行記を
じっくりたのしませてもらった。