2014年02月02日

『つながる図書館』(猪谷千香)図書館の「図書館」ばなれに期待する

『つながる図書館』(猪谷千香・ちくま新書)

倉下忠憲さんが書評にとりあげておられたのでよんでみた。
図書館がどんどんかわっていっている状況がこまかく紹介されている。

著者は、日本で話題になっているいくつもの図書館をたずね、
そのとりくみについてどこがすごいのかをくわしくおしえてくれる。
資料的に正確であろうとするためか、
制度や数字のはなしがたくさんもりこまれている。
そういうところはさっと目をとおすだけになってしまい、
おおまかな感想しかいえないけれど、
図書館って、こんなになんでもできる機関だったのだ。
ひきだしがたくさんあるというか、ふところがひろいというか、
やわらかなかんがえ方をもちこめば、まちづくりの重要な拠点となる。
アメリカの図書館について赤木かん子さんが、
トラクターのかしだしまでしている図書館がめずらしくないと、
日本の概念からおおきくはなれた存在であることを紹介されていた。
日本でも、そうした意識改革がおきているのだ。

図書館というと、しずかな空間で、本がどっさりあり、
ネット環境がととのっていたらもういうことない、
くらいにおもっていたら、
いまの図書館はもっと積極的に「図書館」であることから
はなれようとしている。
「図書館」とはなにか、の再定義がはかられている、という印象をもつ。

本書には、特徴のあるいくつもの図書館が紹介されている。
そのなかでも鳥取県立図書館と隠岐諸島の海士町中央図書館は、
わたしのすむまちのちかくにある図書館として興味ぶかくよんだ。
鳥取県立図書館は、ビジネス支援として
Iターンで農業をはじめようとするひとや
わかいひとへの就労支援などにとりくんでいるし、
海士町中央図書館は、それまで図書館のなかった島に
「島をまるごと図書館に」という構想をもちこみ、
島の未来をみすえたとりくみとして注目されている。

ほかにも、「気になる図書館」が全国にはたくさんうまれている。
少子高齢化社会をむかえ、まちづくりをどうすすめたらいいのか、
指定管理者制度は?電子書籍をどうあつかうか、
といった、あたらしい課題をまえに、
これまでの図書館のままでいてはダメだ、という危機感が
こうした変化をうみだしているのだろう。

わかいころ、友だちがいる町をたずねると、
わたしはよくそこの図書館にでかけてお世話になった。
町によって、図書館の位置づけはずいぶん差があることをしる。
中央図書館を中心に、分館がはりめぐらされている市があれば、
倉庫みたいなところがかろうじて「図書館」とよばれているところもある。
図書館のない町にはすみたくないなー、とつよくおもったものだ。
数年まえにおとずれた金沢市のみらい図書館は、
箱としてのデザインから、館内の空間のつかい方まで、
わたしが図書館にいだいているイメージからおおきくはなれ、
そののびやかな方向性におどろいた。
ここでたくさんあそんでください、というサービス精神をかんじ、
これがこれからの図書館なのかと印象にのこった。

ひるがえって、わたしのまちの図書館はどうだろう。
10日ほどまえに、市立図書館が企画した「書庫探検」にでかけて
図書館の意外なサービスをたのしませてもらった。
いつもははいることのできない閉架書庫を開放し、
自由に本をえらんでください、という
あそびごころをくすぐる「探検」だ。
こうしたとりくみは、たくさんのひとに
図書館について関心をもってもらおうといううごきのひとつだろう。
ただ、本書で紹介されているような
図書館の概念をやぶるような存在とはなっていない。
よくもわるくも、むかしからある、いわゆる「図書館」だ。

わたしはただしい図書館利用者として、
中高生が仲間どおしでおしゃべりしてたりすると、
「おしゃべりは外でしてね」とか、
もっとひどいときは
「ギャアギャアうるさいだろうが!しずかにしろ!」
とか積極的にいう方で、
そんなことに気をとられていると精神的にたのしくはなく、
自然と週末には図書館にいかなくなっていた。
平日の図書館は老人と女性がおおく、しずかでおちついた雰囲気だ。
しかしこれは、停滞した施設ということもでき、
図書館が一部の市民だけのものになっている状態かもしれない。

本書で紹介されているような図書館をしると、
わたしの町にも、そんなふうに
「なんでもあり」の図書館がほしくなってきた。
傍若無人のおしゃべりはおことわりするけれど、
すんでいてたのしいまちであるために、
「図書館」からはなれた図書館になることを期待したい。
ひとりの市民として、わたしにできることがなにかあるだろうか。
おっかないおじさん役は、やめたほうがいいのかもしれない。

posted by カルピス at 11:27 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする