2014年02月04日

『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(吉田友和)梅棹さんの旅行がうらやましい

『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』(吉田友和・講談社)

タイトルにあるとおり、スマートフォンをつかっての海外旅行についての本だ。
旅行さきでネットにつながっているために、
シムロックフリーのスマートフォンが便利だという。
それだけ。
いじわるないい方をすると、それでほぼすべて、という本で、
つながったネット環境で、こんなことができますよ、
という目あたらしい提案はない。
2011年9月に出版された本なので、
いまでは状況がいくらかかわっているだろう。
最先端の情報だけをうりものにすると、
この手の本はすぐに賞味期限がきてしまう。

この本にざっと目をとおすと、ウェブ時代の旅行というものについてかんがえてしまった。
スマートフォンでネットにつながっていれば、
それで旅行は充実するのだろうか。

倉下忠憲さんがブログで梅棹忠夫さんの
タイプライターについてかいておられた。
ほんとうに、このときの梅棹さんとタイプライターほど
道具の機能をいかしきったかっこいいものはない。

1955年におこなわれたアフガニスタンでの探検をおえ、
梅棹さんは友人のアメリカ人学者2人にさそわれて、
カーブルからカルカッタまでの自動車旅行にくわわった。
そのときに、自動車での移動中も、
梅棹さんはひざのうえにのせたタイプライターをたたいて
記録をとりつづけたのだ。
夜くらくなっても、道がどんなにがたがたでも、
タイプライターなら記録がとれる。
ノートとペンではどうにもならない。
窓のそとにうつりかわる、ひとやたてもののようすを
梅棹さんはこまごまと記録する。
この旅行のようすが「カイバル峠からカルカッタまで」という原稿にまとめられ、
やがて『文明の生態史観』の壮大な構想へとつながっていく。
以前から、梅棹さんはローマ字による日本語入力を実践されており、
その体験があったからこそ、この旅行でタイプライターをいかすことができた。

ネットにつながっていたら、たしかに便利だし、
家とおなじことが旅行さきでもできる。
すぐに外国語へと翻訳してくれるのもたすかる機能だ。
電子書籍をよめれば荷物はかくじつにすくなくなる。
でも、それらが旅行を画期的にかえるかというと
たいしたちがいがないような気がする。

梅棹さんがカイバル峠からカルカッタまで、
仲間といっしょにフォルクスワーゲンで旅したときの
密度のこゆい体験がわたしはうらやましい。
旅行というと、そして旅行での記録というと、
このときの自動車とタイプライターのくみあわせをおもいうかべる。

わたしはいまでもスマホをつかわないし、
携帯も電話機能だけだ。
宿泊先のホテルでパソコンがつかえたら
それでもういうことはない。
そんな人間にとって、
『スマートフォン時代のインテリジェント旅行術』は
はじめからいかしようのない本だったのかもしれない。

posted by カルピス at 13:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 旅行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする