新年度がはじまったからか、
おじさんがジムにかよってトレーニングをはじめる、という企画が目につく。
そのうちのひとりは、わたしがすきなサッカーライターの宇都宮徹一さんだ。
からだをうごかしたいけど、最初の一歩がなかなかでない、というおじさんたちの、
こころづよい味方になるのでは、という企画らしい。
宇都宮さんはいま48歳で、これからさき歳をとり、60になったときにも
キビキビとからだがうごくことを目ざしてジムにかよいだいしている。
宇都宮さんは、週に1回のトレーニングを、2月からはじめられたという。
おもたい重量があがるようになってきているものの、
体重には変化がなく、このままではモチベーションが維持できないと、
連載の2回めにはやくも弱気な報告がのった。
週に1回のトレーニングをしたからといって、
すぐに成果があがるわけがないようにおもうけど、
トレーニングにたいする一般的な認識は、こんなものなのだろうか。
週に3回のトレーニングを、3ヶ月つづけてきたけれど、
まだ成果がでない、だったら、
そういうこともあるかもしれないね、とおもうけれど、
週に1回を2ヶ月つづけたからといって、体重がへるようなら苦労はしない。
いまのジムでは、なにか画期的な方法をおしえてくれるのだろうか。
意外なのは、おじさんたち(宇都宮さんだけではない)が、
運動からとおざかった自分のからだに、
なにをしたらいいのか、よくわからないことだ。
運動と関係ない仕事というわけではないし、
リハビリというか、ひさしぶりのトレーニングには、
どんな運動がいいのかぐらい、
常識としてだれもがしっている情報なのかとおもっていた。
「今年から身体を動かそうということで、
初めてフィットネスクラブの会員になりました。
何を着ていけばいいんだろう?」
と、宇都宮さんはジムがよいのまえに、フェイスブックにかきこんだという。
服装からかんがえこんでしまうぐらい、
宇都宮さんはトレーニングからはなれていたのだ。
まあ、だからこそ、自分でも一歩をふみだそうと、
おじさんたちの背中をおしてくれるのだろう。
ダイエットについてかたられると、かならずといっていいほど、
消費カロリーと摂取カロリーの差が脂肪になるので、とか
基礎代謝がいくらで、日中の活動で消費するカロリーがこれこれなので、
というはなしがでてくる。
もう30年もむかしから、おなじような「まえぶり」をききつづけてきた。
それだけについていえば、きっとただしいのだろうけど、
基礎代謝や消費カロリーにばかり目をむけても
ダイエットがうまくいかないのは、
このふたつには習慣化するだけの魅力がないからだろう。
基礎代謝や消費カロリーをみきわめたからといって、
トレーニングに効果がうまれるかというと、
わたしはあんまり関係がないようにおもう。
ダイエット、それにトレーニングも、
けっきょくはどれだけつづけられるかが大切になってくる。
なにごとにおいてもそうだけど、
トレーニングでも両極化がはげしい。
やるひとは、病気のときでもトレーニングをやすめないのにたいし、
やらないひとは、ほんのささいなことでも やめるきっかけになる。
いつでもやめる覚悟をもっているひとが運動をつづけるには、
いろんなしくみに手だすけしてもらう必要があるのだ。
フィットネスクラブは、インストラクターの存在や、ジム友、
自分にあったメニュー、定期的な数値の測定、カウンセリングなどで
なんとかあきないでつづけられるよう、環境がととのっている(らしい)。
とはいえ、いくらまわりがよくても、
つづかないひとは、けっきょくは習慣になるまえにやめてしまう。
わたしがかよっているジムは、
ネットでみるフィットネスクラブみたいなはなやかさがまるでない。
インストラクターはついてないし、ふるくさい器具と
フリーウェイトがおいてあるくらいだ。
トレーニングがつづくのは、圧倒的に中高齢のおじさんたちで、
わかい女性たちは、こんな殺風景なジムではなくて、
お金がかかっても、利用者がおおくても、
もっと絵になるジムをえらぶみたいだ。
おじさんには、トレーニングをはじめるだけの切実な動機がある。
つづけやすいといえるし、もしやめたときには
人生のさきゆきとおおく関係してしまう。
そのままでっぱったお腹をほおっておいては、
健全な老後をすごせないという、あとにひけない状態なのだ。
いまをのがしたら、自分の足でうごけなくなる、という悲壮感が、
おじさんたちの頭にはある。
いっぽうで、うまくいけば夏までに3キロ!
という女性の覚悟がよわいかというと、そういうわけでもない。
一流の女性アスリートが、運動をはじめたきっかけとして
ダイエットをあげることはよくある。
トレーニングがつづくかどうかは、
習慣にできるかどうかの問題であり、
それにはどれだけ切実な動機があるかがとわれる。
動機の質は関係ないようで、
まえにもいったように、基礎代謝や消費カロリーは、
トレーニング習慣の なんのささえにもならない。