2040年までにおおくの市町村で
20〜39歳の女性が半減する、という予想が
このごろたてつづけに新聞でとりあげられた。
奈良県の川上村は、試算によると約90%へって
たった8人になってしまうという。
これも少子化の影響なのだろうか。
少子化は結婚適齢期のひとが結婚しなかったり、
結婚をおくらせることがおおきな原因になっている。
いま日本でなにがおこりつつあるのか。
とくに、わかい女性の意識はどうかわってきたのか。
わたしの場合、こうした現象に関心をもつようになったのは、
小倉千加子さんの本にであってからだ。
『女の人生すごろく』をきっかけによみはじめ、
『結婚の条件』でわたしの小倉千加子さんへのおもいいれは
決定的となる。
なにしろこの本では、結婚と洗濯機のかいものはいっしょ、なんて
ズバッと本質にせまるたとえがしてあるのだ。
洗濯機がこわれたら、部屋のひろさや収入におうじて
かわりの洗濯機をかうことになる。
適当な洗濯機にであえないからといって、
洗濯をやめるわけにはいかないから とうぜんのかいものといえる。
それではなぜ適当な結婚相手はさがせないのか。
「結婚は、恋愛よりもはるかに洗濯機に近い」
と喝破する小倉さんにわたしはしびれてしまった。
それだけ結婚と恋愛は いまやほとんど関係がない。
小倉さんは、そうした具体的な例をあげるのがとてもうまい。
とはいえ、ではなぜ適齢期の男女が結婚しないのか、ということになると、
あいかわらずわたしの頭のなかは
おおすぎる情報を整理しきれないままだ。
小倉さんの本をよむたびにふかく感心しながらも、
結婚をめぐる ひとびとの複雑な心理は、
わたしの理解をうわまわる。
『結婚の才能』(朝日新聞出版)には、
小倉さんが40歳になったばかりの女性に
結婚相手の紹介をたのまれたときのことがかいてある。
「結婚したい。贅沢な条件は言わないから。
生物学的に男性なら、誰でもいいから」といわれたそうだ。
小倉さんは条件をたしかめていく。
・身長 170センチ以上
・体重 90キロならいい。120キロはこまる
・住居 関東地方在住
・学歴 常識のある大卒
・職業 サラリーマン。農家ではこまる
・頭髪 ハゲはちょっと。薄毛ならいい
・相手の実家 さびれていない駅前の商店街ならOK
・親の同居 親には別の家に住んでいてほしい
・収入 そこそこあればいい。わたしの収入を当てにされるのは困る
・家事 最低限は自分でできる人がいい
・趣味 ギャンブルは困る
・煙草 吸わない人がいい。外で隠れて吸うのはかまわない
・お酒 アル中でなければいい
・話 まったく喋らない人は困る。コミュニケーション能力は普通にある人がいい
・新聞 無購読層でなければいい
「彼女の言う条件の一つひとつについては、
私も納得できなわけではない。
しかし、条件を一つ出すたびに、色紙を半分に切っていくことになる。(中略)
彼女の条件が贅沢であると批判することが、私にはできない。
一つ一つは普通でも、全部合わせると普通ではないという不思議なことが
世の中にはあるのである。
彼女の部屋は『美しい部屋』のグラビアのように美しいし、
料理の腕はプロ級である。
結婚生活を送る能力や技能はすべて揃っているのに、
たったひとつ、本気で結婚したいという気持ちだけが起こらない」
「世の中には、結婚制度を自明視して何の疑いもなく結婚していく人がいる。
そういう人は、条件のうちの何かを最初から諦めている。
諦めているから、現実の結婚ができるのである。
本気で結婚したければ、妥協すればいいのである。
条件を云々している間は、結婚はできない。(中略)
結婚は運命ではなく、決断である」
けっきょく、本気で結婚しようとはおもっていないのだ。
いろいろな条件をかんがえると、
結婚してもいいことなどあまりないことになる。
苦労をせおうことがわかっていながら
わざわざ結婚する気になどなれない。
わたしが結婚したのは33歳のときで、
あんまりこまかいことはかんがえなかったように記憶している。
会社にはいっても、なかなか仕事がつづかないわたしのような男と
いっしょになってくれたのだから、
客観的にみれば、配偶者が妥協してくれたからこそできた結婚だ。
いまのわかいひとたちは、もっとたくさんの条件を意識するから、
ああでもない、こうでもないと、
なかなか結婚にふみきれないのだろう。
小倉さんのおかしさは、
ものごとをとことん理づめでかんがえる姿勢から生まれている。
とらえ方によってはすごくまじめ。
『醤油と薔薇の日々』(いそっぷ社)には
小倉さんが手相うらない師を うらなうはなしがでてくる。
「今、何をしてらっしゃるの?」
「手相を観てもらっています」
「お仕事はしてらっしゃるの?」
「今日は仕事をしていないから、こうやって街にでてきているんです」
「なんのお仕事?」
「手相に出てないんですか?」(中略)
「今、何か心配ごとがありませんか?」
「こうやってあなたが占いをしている。そういう世の中が心配です」
「は?」
「わたしは占いができましてね。
あなたの運勢が気になって仕方ないんですよ。
あなたには、今、すごく大きな心配ごとがありますね」
「分かりますか?」
「精神的な悩みを抱えておられます。経済的にも不安ですね。
でも、こういうことを続けていると、もっと悪いことが起こりますよ」
「え、何が起こるんですか?」
「離婚するとか」
「ええ!どうしたら離婚しないですみますか?」
完全に、立場が逆になっているのがおかしい。
手相うらない師をこまらせてやろうと
小倉はいじわるをしているわけではない。
ほんとうに、こまっているひとの相談にのっているのだ。
冗談をいっているのではないのに、まっすぐなみかたが
おかしさにつながっている。
これだけの芸達者は、なかなかいない。