お坊さんではなく神主さんが式をすすめていく。
お経とちがい、日本語をはなしてくれるので、
はなされる内容をききとることができる。
意味のわからない外国語を
ありがたがってきかなければならないお経よりも
ずっと身ぢかに葬儀をかんじられた。
葬儀の時間も30分とみじかく、
権威的な雰囲気でもっともらしさを演出しようとする仏式よりも
手づくり感があり、好感をもった。
かえりのフェリーのりばには
おみやげ屋さんがあって、
鷹の爪の商品をいくつかうっていた。
本土からたった2時間半とはいえ、
はるばる島にやってきた気がしていたわたしには、
おもいがけない吉田くんとの再会であり、
こんなところでも「世界征服」していることをうれしくおもった。
おみやげをかわない主義のわたしだけれど、
「鷹の爪のおやつ」という名のスナックがほしくなってレジにもっていく。
「世界征服の味」がすると袋にかいてある。
販売者は島根県雲南市にある「株式会社キンヤMA」となっており、
袋の充実したレイアウトから
蛙男商会による全面的なバックアップがみてとれる。
表側では、鷹の爪のメンバーたちがそれぞれひとことずつつぶやいている。
デラックスファイターは「買え!」だし、総統は「お土産に最適!」といっている。
吉田くんによると「島根県産とうがらし使用!」なのだそうだ。
もしおいしかったらうれしいし、期待はずれの味でも
たしかにおみやげばなしにはなる。
きのうはいいお天気だったので、そと海にでてもまったく波がなかった。
だったらフェリーでの船よいはないかというと、
やっぱりそれなりに気もちのわるいゆれがあり、
よいどめの薬をのんでいたのにもかかわらず
わたしは横になって目をとじている時間がながかった。
もしこれで海があれていたら、どうなっていただろう。
このごろ豪華客船によるクルーズがよく新聞の広告にのっているけれど、
わたしには船の旅はとてもたのしめそうにない。
フェリーといえば、韓国での事故をおもいうかべる。
じっさいに自分が乗客になっても、
救命胴衣や救命ボートの確認まで気がまわらない。
ホテルにとまっても、わざわざ避難経路をたしかめたりしないのといっしょだ。
救命胴衣は休憩室の棚にはいっているようで、
いくつはいっているか、という数と、
いつそれをチェックしたのかという紙がはってあった。
あの事故をうけて、臨時の点検がおこなわれたのか、
わりと最近の日づけになっていた。
連休にどこへもでかけなかったし、
計画していたおでかけを延期したので、
日がえりでの隠岐の島ゆきは、葬儀のためとはいえ
旅行気分を味あわせてくれた。
平凡な日常のつらなりがわたしはすきだけど、
たまにはこうしてうごきをつくるのもわるくない。
ふだんはできない体験をもち、ゆっくりはなしをできないひとと
いつもはしないとおしゃべりをたのしめた。
『異邦人』の冒頭がチラッと頭をかすめる。
母親の死をつたえる電報をうけ、ムルソーはバスにのって
養老院のある町へでかけた。
きゅうなしらせと それにつづく移動。そして通夜と葬儀。
町にもどると、まるで死がなかったかのように
またいつもの日常がはじまる。
「まったくの日曜日だった」と
退屈ないちにちを淡々とやりすごす場面がわたしはすきだ。