2014年06月12日

『WOOD JOB』(矢口史靖監督)山での仕事もわるくない。でもほんとは、山にかぎらずどこでもいいよ。

『WOOD JOB』(2014年・矢口史靖監督)

大学受験に失敗し、なんとなく林業の1年研修に参加することにした
都会そだちの平野勇気くん。

宮ア駿さんがはげしくすすめている帯にひかれ、
2009年に原作をよんでいた。
矢口史靖監督がかいた脚本は、
三浦しをんさんの原作とちがう点がいくつもあるけど、
全体の雰囲気はうまくつたえている。
リアリティについていえば、ヨキが新人の勇気を危険な目にあわせたり
(勇気が山の斜面をおちていくのに ほうっておく場面)、
軽トラを家の敷地にハデにつっこんで、郵便うけにぶつけるところはうけいれにくかった。
家にかえるたび あんなことをするひとはいないだろう。
そこらへんは矢口監督の過剰なサービスなのかもしれない。

研修のはじめは1ヶ月間の基礎講習で、
ひとくせありそうな研修生との
ドタバタがはじまる、とおもったら、
そこはかるくながされた。
矢口監督としたら、もっとあそびたかったところではないか。
そこであんまりひっぱると、神去村でのくらしがぼやけてくるので、
適切な判断というべきだ。
映画はすぐに神去村へと舞台をうつし、勇気の山仕事は本番をむかえる。

生まれそだった都会からはなれ、
体験したことのない田舎での生活をはじめることになった
勇気のトホホ感はよくでていたとおもう。
いまの高校生がスマホをなくしたら、
どんな反応をみせるだろう。
でも、島根そだちのわたしとしては、
村や山の風景にまったく違和感がなく、
いなか性をおおさわぎする都会の人間のほうが
よほどとおい存在だ。
すごい田舎といっても、神去村には子どもがたくさんいたし、
道ばたや田んぼのアゼも草がかられ、よくひとの手がはいっていた。
限界集落ではなく、活気のあるしっかりした共同体として村が機能している。

自分がなにものかまだしらないわかものが、
おとなの社会にもまれてだんだんと一人前になっていく。
そうした成長ものがたりがわたしはすきだ。
山での一年は、勇気にとっていい体験となるだろう。
この春の連休に、むすこといっしょに山にはいってマキづくりをしたあと、
むすこに『神去村なあなあ日常』をわたしてみた。
むすこは、自分からはあまり本をさがさないけれど、
わたしがすすめるとあんがいあっさりよんでくれる。
この本も、わたしたつぎの日にはよみおえてしまった。
おもしろかった、というので、
「こういう仕事はどう?」ときくと
仕事としてはいやなのだそうだ。
すこしのまよいもなく、というか
ほんとにそれだけは勘弁して、というかんじで
はっきりことわられてしまった。

山の場面では、音楽にタイコがよくつかわれた。
なんだか『もののけ姫』みたいだ。
そういえば、自然とひととの対立をえがいた『もののけ姫』と、
山か都会かの選択でもあるこの作品は、
にていないこともない。
都会がにがてなわたしは、山での仕事もわるくないかも、
とすぐに影響をうけた。
あんなふうにからだをうごかしてはたらき、
みんなで弁当をたべる。
朝ははやいかもしれないけど、残業はぜったいになさそうだ。
ふるい型のオフロードバイクもかっこよかった。

『ウォーターボーイズ』以来、矢口監督の作品はぜんぶみたことになる。
わかものが主人公といっても、これまでの作品とはだいぶちがい、
はたらくこと・くらしていくことに焦点があたっている。
高校生までは、基本的に自分とそのまわりの「いま」しか目にはいらない。
家族や自分の将来がどうこうよりも、「いま」で精一杯の年頃といえる。
シンクロやビッグバンドで青春をかがやかせるのが わかものの使命でもあった。
『WOOD JOB』の平野勇気くんは、高校は卒業したものの大学受験に失敗し、
これからどう生きていくのかを かんがえなければならなかった。
予備校にかよって将来像をさきのばしするよりも、
とりあえずうごきだすことを勇気はえらぶ。
その位置づけがこれまでの作品とはちがうのであり、
その覚悟にみあう作品にしあがっている。
高校を卒業してからも シンクロにうつつをぬかされてはこまるのだ。

いろいろかんがえても自分さがしのこたえはでない。
勇気みたいにとりあえずでもいいからうごきはじめれば
そのつぎの展開がなにかみえてくるだろう。
わかければ、まわりもうけいれやすい。
林業だから映画にしやすかったのであり、
これが都会のコンビニではドラマになりにくいだけで、テーマはいっしょだ。
矢口監督は、なにかの仕事で自分の居場所をみつけた
勇気みたいなわかものにであいたかったのだ、きっと。

posted by カルピス at 22:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする