20日の記事で朝日新聞が「医療・介護改革法」の成立をつたえていた。
「患者や要介護者の急増で制度がもたなくなる恐れがあり、
サービスや負担を大きく見直す」というものだ。
以前から、2025年問題(団塊の世代が高齢者に)の重大さは指摘されており、
ようやく具体的な対応にむけて腰をあげたのだ。
「高齢者の急増、支え手世代の減少、財政難の『三重苦』」にどう対応していくか。
これまでののやり方をそのままつづけるのが
無理なことはわかっていた。
しかし、なぜかこれまで政策に反映されてこなかった。
危機感がリアルにうけとめられてなかったのだろう。
先日よんだ藻谷浩介さんの『しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮社)には
医療について、村上智彦さんとの対話がおさめられている。
藻谷「全部医療でやろうとすると、本当に生き死にがかかっている人が
病院に運ばれても、
本来なら入院する必要のない人がベッドを占めていて、
病院に入れないということも起こってきますよね」
村上「はい。悪気がなくても、『ちょっと心配だから家には帰らない』
という高齢者でベッドや診療が埋まってしまえば、
急患も受け入れられなくなります」
いまは具合がわるくなったら病院へいくのがあたりまえだけど、
もうすこししたら患者さんがおおすぎて みてもらえないし、
入院もできなくなるかもしれない。
今年の冬、母が体調をくずし、病院へいくと大腸がんだった。
すぐに入院、そして手術へと対応がとられる。
さいわい順調に治療がすすみ、1ヶ月で退院できた。
医療体制に感謝しながらも、それがあたりまえともおもっていた。
そうしたシステムが、これからさきいつまでつづくかわからない。
ベッドは高齢者でいっぱいだし、
自分の健康管理をほったらかしてきたひとたちで
診察の順番もまわってこない。
医者もベッドも医療費も、いまの水準は維持できそうにない。
長寿の国をめざして医療のしくみをととのえてきたのが、
結果として自分の首をしめることになってしまった。
同書では、もうひとつのこわい予想として、
大都市ですすむ高齢化がはなされている。
村上「たとえば東京都は、すごい勢いで高齢者が増えています。
新宿区にある戸山町など数千人規模の町では、
高齢化率が40〜50%にも達するところが既に出てきている。(中略)
日本の2050年頃の高齢化率は40%を超えると言われているので、
こうした地域は、まさに40年先の人口構成を先取りしているんです。(中略)
夕張は、若い人が抜けた分だけ高齢化が進んだわけですが、
東京は、地方から高齢者が新たに流入してくるということです。
東京に行けばひょっとしたら助かるかもしれないと勘違いした高齢者が、
大量に流れてくると予想されています。
しかもその人たちは、稼ぎがない、言ってみれば、
何も生み出さない人たちですよね」
藻谷「稼ぎがない上に、多くはコミュニティや家族からも切り離され、
公的福祉に依存するしかない人たちです。(中略)
本人が良心的であっても、加齢とともに心身が不自由になる確率は高い」(中略)
村上「このままいけば、いずれ東京都の人間は
みんな日比谷公園で死んでいくような時代がくると思いますよ。
病院には入りきらないし、施設もないし、
身寄りのないお年寄りがいっぱい出てくる」
東京は、わかいひとがおおい町なので、高齢化は関係ないのかとおもっていた。
そうではなくて、大都市こそ ものすごい数の高齢者をかかえる時代を
これからむかえるのだ。
地方の限界集落が問題視されているのをみかけるけれど、
もうそうした村は老人がへりはじめているので、
かんがえようによっては将来の介護について あたまをなやませなくてもいい。
たいへんなのはむしろ大都市のほうだった。
介護保険によって、家族への負担がすくなくなり、
介護は専門機関をあてにできるしくみになったとおもったのに、
これからは、それをつづけるだけのお金も施設もひともないという。
老人介護がくるしくなれば、とうぜんそのうごきは障害者介護にも影響をおよぼす。
基本的にお金がないわけだから、それをどこにむけるかというときに、
障害者だけが特別枠であつかわれることはかんがえられない。
公的福祉にたよらずに、できるだけボランティアやたすけあいで、
というながれはとまらないだろう。
医療や介護にたよりきらない意識が必要なことはわかる。
ただ、どこまでを個人のこころがけにもとめるかのバランスがむつかしい。
『しなやかな日本列島のつくりかた』では藻谷さんが
「お天道さまが許さん」というかんがえ方を紹介している。
しかしいまの日本人に、この美意識がどれだけ有効にはたらくだろうか。
個人的には、お金はあるとおもっている。
そのつかい道を、医療・介護よりもべつなこと、
たとえば防衛費や補助金なんかにまわすから
いくらあってもたりなくなるのだ。
どこかで大英断を、いうはなしは、何十年まえからずっときくけど、
まったくそういううごきはない。
基本的には、多少の負担がふえても いまのシステムをつづけてほしい。
調子をくずしたときに、治療をうけられないのはこまる。
みはなされた気もちで死にたくはない。