2014年06月28日

『医療にたかるな』(村上智彦)夕張再建にとりくむ村上さんのたたかい

『医療にたかるな』(村上智彦・新潮新書)

夕張市の財政破綻があきらかになった2006年、
夕張市総合病院は退職者が続出し、崩壊寸前となる。
その病院を2007年からひきついだのが著者の村上さんだ。
村上さんは、夕張市の財政破綻はけして特殊な事情ではなく、
日本の縮図として 日本の将来をかんがえるのに
夕張市ほど適した町はないととらえている。

「地域経済の疲弊、少子高齢化、過疎化、教育問題、大衆迎合政治、
住民の依存体質・・・(中略)
夕張で起こっている問題は、近い将来、
必ず日本各地でも起こることになるでしょう」

この本は、夕張市再建にむけた村上さんのたたかいの記録だ。
「『敵』は、いずれもちょっとしたごまかしの積み重ねによって作られてきた
”日本社会の仕組み”そのものだった」という。

夕張市民にわたしがイメージしていたのは、
いいかげんな財政をほっておいた責任がゼロではないにしろ、
財政破綻による被害者であり、かわいそうなひとたちというものだった。
しかし、村上さんによると
夕張市民は市にたかりつづけ、
自分たちはできるだけ負担しないでおいて、権利ばかりをもとめた。
その結果が財政破綻であり、
おなじことはほかの町でいくらでもおこりえる。

「夕張が破綻したとき、市の職員は350人もいました。
日本の市役所職員の平均人数は、人口1000人あたり7.8人です。
人口1万2000人の夕張市では94人になります。
つまり市役所職員が平均より250人以上も多かったことになります。
しかも、1人当たりの年収が平均700〜800万円とバカ高かった(中略)
夕張市は、観光事業の失敗よりも、
市職員の人件費によって破綻に追い込まれたといっても過言ではありません」

「財政破綻をきっかけにゴミの分別がルール化され、
粗大ゴミが有料となった時も、診察を受けに来た女性が
『もう夕張では生活していけない』と泣き出したことがありました。
私が呆れて『他の地域では当たり前のことですよ』
といったら、びっくりしていました。
『以前は払っていなかった』『夕張市の対応が悪い』
などという言い訳は世間では通用しません。
家賃や治療費を払わないのは、ただの犯罪です。
他の地域の人が普通にやっていることを、
夕張のひとはやらなかったから破綻したのです。
夕張の人は、『破綻の犠牲者』ではなく、『破綻させた張本人』なのです」

「品の良い高齢の女性が涙ながらに訴えます。
『破綻前は子供たちに本の読み聞かせをやっていたのですが、
財政破綻で図書館が閉鎖されてしまったので、
それも出来なくなってしまいました』
いかがでしょうか。このような話を聞くと、
おそらく多くの方が
『彼女こそは”破綻の犠牲者”として扱ってもいいのでは』
と思うのではないでしょうか。
しかし、私は彼女の話を聞いても全く同情できませんでした。
『本当に読み聞かせをやりたいのでしたら、
図書館が無くてもできるんじゃないですか。
どうして、場所を探してやろうとしないのですか。
あなたたちはそうやって何でも人任せにしてきて、
自分たちでやらなかったから
破綻したのではないですか』」

「リスクと向き合う」として
「もちろん高齢者の行動にはリスクが伴いますから、
たとえば自宅で高齢患者の面倒をみろと言われたら、
身内の方も不安を感じると思います。
よく家族の方からも『何かあったらどうするんだ?』
と言われますが、そんな時、私はこう答えます。
『必ず何かあります。あなたのお父さんは
たぶんあなたより先に亡くなります』
多くの方が、その言葉から何かを感じ取ってくださるように思います」

高齢化がすすむ日本において、
これまでどおりに「医療にたか」っていては、
夕張市以外の町でも おなじような財政破綻をまねくだろう。

「『ささえる医療』をやっていく中で、
金もうけをしようと取り組んでいる人は、
なぜが途中でうまく行かなくなって脱落していきました。
結局、生き残って成果をあげているスタッフは、
この町が好きだから町づくりを支えていきたい、
町の将来を支えるための人材を育てていきたい、
そしてこの町で死んでいきたい、
そう思っている人たちだけなのです。
『そんな奇特な人材は、そうそういない』
と思う方もいるかもしれません。(中略)
そのような人材のいない地域は潰れていくしかないというのが
私の考えです。
ただ、人間そう捨てたものではないということも
一応申し上げておきます」

村上さんは本のおわりで
「私はこの国にはまだ希望があると信じています」
とむすばれている。

今回は、ほとんど本書からのぬきがきになってしまった。
村上さんのたたかいは、それだけの迫力があり、
こうしたかたちでの紹介がいちばんいいとおもった。
自分がすむ地域は、自分たちでまもるしかないことを肝にめいじたい。

posted by カルピス at 22:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする