2014年08月17日

『今こそ読みたい児童文学100』(赤木かん子)おとなにむけた子どもの本の紹介

『今こそ読みたい児童文学100』(赤木かん子・ちくまプリマー新書)

この本は、おとなにむけた児童文学のガイドだ。
「はじめに」にあるかん子さんのかきだしにおどろいた。

「児童文学は子どものために書かれた物語ではありますが、
ケータイの出てこない時代のものはもう子どもには読めないのが普通です。
でも物語の好きな大人なら・・・」

世の中のうつりかわりのはやさが、そのまま児童文学にも影響をあたえる。
子どもむけの本は、旬の時期が意外とみじかいのだ。
親はよく、自分が子どものころにすきだった本、
たとえば『長くつ下のピッピ』なんかを子どもにすすめたがるけど、
いまの子どもたちがどっぷりピッピにひたれるかというと
かなりかぎられた子しか、ピッピをうけいれられないそうだ。
かん子さんは、本についての賞味時期にくわしく、
何歳ごろの、どんな性格の子にはこういう本、と、
こまかく提案できるひとだ。

章だては、
・大人のテーマが、子どものなかへ
・薄くても、中身は濃いですよ
・児童文学は愛情不足をこんなふうに描いています
・十代の反抗ープロブレムノベルス
・もう一度読み返したい名作たち

など9章からなっている。1冊ごとに2ページの解説つきだ。
第2章の「薄くても、中身は濃いですよ」をみると、

「児童文学の変化は、この低学年の本にもおしよせてきました。
低学年が主人公なのに、うっかりすると低学年では読めない物語が
生まれてきたのです。
ですから、内容的には、本当に子ども向けに書かれたんだけれど、
大人が読んでも面白いんだよ、というものから、
これは低学年用の本にみえるけど、
はじめから子どもを読者だとは思ってないよねという本まで
広がってしまったので、ちょっと別建てにしてみました」

そうした本を一般的な大人が手にとっても、
そのよさに気づくのはかんたんではない。
そんなとき、かん子さんみたいな案内役がいてくれると、とてもたすかるわけだ。

第7章は「骨太すぎるオーストラリアの物語」。
オーストラリアの過酷な大地が
独特の児童文学を発展させたそうで、
まるでオーストラリアのサッカーみたいでおかしかった。
オーストラリアのサッカーは、フィジカルにたより、
ラグビーとかんちがいしてるんじゃないかというプレースタイルだ。
ちからずくで、あまりにもはげしくからだをぶつけてくるから、
ほそい日本の選手たちがつぶされるんじゃないかと心配になる。
児童文学もおなじようにゴリゴリしたスタイルに発展していたとは。

かわっているのは第8章の「おすすめしにくい本たち」だ。

「世の中には、これはおすすめしにくい、という本もあるのです。
ものすごーくいいんだけれど、たとえば、読みにくいんだよねえ、とか、
長いんだよねえ、などの理由でー」

として、『アーサー・ランサム全集』や『指輪物語』があげられている。
かん子さんは『ランサム全集』がだいすきなのに、
あえて「おすすめしにくい本たち」にこれをいれたのは、
いそがしいいまの日常と、この本の世界があまりにもかけはなれているからだ。

「もちろん、読みたい、というかたがいらっしゃいましたら、止めはしません。
ランサムファンが増えるのは大歓迎です
(でも、入れなくてもがっかりしないで。
たいていのかたが、もう入れないでしょうから)」。

本の賞味期限のみきわめは、かなりむつかしい。
わたしなんかだと、つい「いい本だから」と
すすめてしまいがちだ(『ツバメ号とアマゾン号』を
むすこによみきかせしたけど、たしかにあまり反応はよくなかった)。

『指輪物語』をよむときのアドバイスは、すごく実際的だ。

「映画、観てください。観ちゃっていいです、ええ。(中略)
そうして本の、三巻目からお読みください」

わたしはかん子さんを案内役に児童文学をよむようになった。
もちろん子どものころは、自分ですきかってによんでいる。
でも、子どもの本のなかには、おとなになってからも
たのしめるものがあることをしったのは、
かん子さんの『こちら本の探偵です』からだ。
かん子さんのあとには、河合隼雄さんや清水真砂子さん、
そして宮ア駿さんがすすめる 小どもの本をよむようになる。
そのスタートは、かん子さんの本にであったことだった。
どの年代の子に、どんな本がこのまれているかをかん子さんはおしえてくれる。
たくさんでている児童文学のなかから、いい本にであおうとおもったら、
じっさいに子どもたちに支持されたものをよむほうが まちがいない。

本書では、カニグズバーグの本から『魔女ジェニファとわたし』をえらんでいる。
子どもたちがメトロポリタン美術館に家出する『クローディアの秘密』
のほうが派手で、子どもたちによろこばれそうなのに、
「でも今読んでも面白いだろうと思うのはこっちなんです」というのが
かん子さんのみかただ。

もういちど「はじめに」にもどると、

「今の大人で物語の好きなかたが読んだら面白い、といっていただけるであろう本を
百冊集めてこの本を作ってみました」

子どもの本のなかには、基本的な教養としておさえておきたいものがおおく、
しかしいまさら児童文学は、あんがい手にしにくいものだ。
本書のような解説つきのガイドだと、義務ではなく好奇心がわいてくる。
たとえば『ハックルベリー・フィンの冒険』は『キャッチャー・イン・ザ・ライ』をよんだときから気になっていた。
『キャッチャー』の理解には、どうも『ハックルベリー・フィン』をすませておいたほうがいいみたいだ。
「骨太すぎるオーストラリアの物語」もじっさいによまないと、
オージーサッカーとの比較ができない。
この本を参考に、子どもの本をもういちどよんでみることにする。

posted by カルピス at 20:47 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする