2014年09月30日

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(ジェーン=スー)最強・最上の女子指南書

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(ジェーン=スー・幻冬舎)

装丁・装画を担当された芥陽子氏の絵にたじろぐ。
この本には毒がありますよ、
うっかりちかづかないほうがいいかもしれませんよ、と
表紙の絵がおしえてくれる。
覚悟のうえでわたしは、ジェーン=スー氏の本をはじめて手にした。

「女子指南書」なのだそうだ。
『負け犬の遠吠え』から10年。
女性はまたあたらしいバイブルを手にいれたのか。
よんでるうちに、自分がまったくさえない男におもえてきた。
これはもう、いさぎよく白旗をあげて、
本文から引用しまくるしかない。
各章のタイトルからして絶妙だ。
そこでもう勝負がついてるかんじ。

「女子会には二種類あってだな」
「ババアの前に、おばさんをハッキリさせようではないか」
「そんなにびっくりしなさんな」

どのタイトルも、そのさきをよみたくなってくる。

かとおもうと、
「粉チーズは高額嗜好品であります」という庶民の視線からの指摘もある。
ほんとうだ。なんであんなにたかいものを平気でかってるのだろう。

「粉チーズは罪な食べ物で、それ単体では食べられない。
 粉チーズは罪な食べ物で、それ単体ではたべられないのですよ」

粉チーズはたかいので、ジェーン=スー氏は
巨大なパルメザンチーズを冷凍庫に保存しているそうだ。
家でパスタをつくったとき、
そのパルメザンチーズをたまたまきらしていて、
粉チーズをかけれなかった。2日つづけて。
3日目にはファミレスにいってドリアを注文したのに、
あろうことか粉チーズをかけるのをわすれてしまった。
それに気づいたとき「確かに時が止まったのです」
というジェーン=スー氏の無念さをおもうと胸がいたむ。
「粉チーズは罪な食べ物で、それ単体では食べられない」
というながいフレーズを大胆に2回くりかえすことで、
粉チーズにたいするジェーン=スー氏のゆがんだおもいがつたわってくる。
この章は、粉チーズへのうらみつらみだ。
「パスタにもドリアにも、いつか思う存分かけてやる。
クラフトよ、その細い首を洗って待っておけ」
(「ファミレスと粉チーズと私」)

おもしろかった表現を引用してみる。

(「三十代の自由と結婚」)
「結婚しなきゃわからない喜びがあるならば、
結婚したらわからない楽しさもあるはずです」

「三十代で手に入れた自由は武器から城に姿を変え、
それを手放すのはどんどん難しくなってしまいました」

「二十代では夢と希望に満ち溢れていた『結婚』の二文字は、
いつのまにか納めなければならない『年貢』に見えてきて、
享楽的なキリギリスはいつか罰を受けるのではないかと
恐怖で目覚める朝もある。
『じゃあアンタはいままでなにやってたの?』と問われれば
『毎日を!一生懸命!楽しく過ごしてまいりました!』
としか言えないのが苦しいのですが」

(「女友達がピットインしてきました」)
「大切な女友達が男と別れました。
ちゃんと付き合って、ちゃんと別れた。大人だからね。
これからは、ピットにインしてきたオーバーヒートのF1カーを、
女友達というメカニックが至り尽くせりでケアするのであります。
大丈夫、すぐに車道に戻したりはしないから。
ただ、素早く黙々とやるよ、私たちは。手慣れたもんだぜ」

(「笑顔の行方」)
「そうやって自分のツラにも慣れた頃、
久しぶりに単体で写真を撮って頂く機会がありました。
かなり頑張って笑ったのに、
上がってきた写真の私はやっぱり笑顔がまだまだ硬かった。
少し快活な地蔵といったレベルです」

(「ピンクと和解せよ」)
「こうして、私はピンクと和解しました。
ピンクはいまでも受動的な愛され願望を連想させるけれど、
自分にそんな願望があることを、
ニヤニヤとみとめられるようにもなりました。
ピンクは私にとって特別な色ではなくなり、
いまでは『ピンク?ああ、あいつイイ奴だよね〜』
程度までのスタンスが取れる」

はじめて目にする文体だ。リズムときりくちのするどさがここちいい。
酒井順子さんを小倉千加子さんで武装し、
毒をたくさんふりかけたら こんな破壊力を生み出すのだろうか。
自分のおもっていることを、これだけぴったりのこどばで表現できればたのしいだろう。
ハチのひとさしでおわるのではなく、
それが何ページもガンガンつづくのだから、
よむ側に体力ががなければ、おわりまでよみとおせないかもしれない。

ある合コンで、ジェーン=スー氏のいたテーブルが「北朝鮮」とよばれ、
そこからのがれることを「脱北」と男たちがいっていたそうだ。
なんて失礼な男たち。でも、こわいものみたさで
うっかりジェーン=スー氏にちかづかなかった彼らを ほめるべきだろうか。
そんなことをしたら、表紙にかいてある毒々しい花に
ムシャムシャたべられてしまいそうだ。

これまでジェーン=スー氏の本をしらなかったことを後悔し、
さっそく『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』を注文する。
わたしによみとおすだけの体力があるだろうか。

posted by カルピス at 22:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする