『5アンペア生活をやってみた』(斉藤健一郎・岩波ジュニア新書)
斉藤さんの1ヶ月の電気代は190円なのだそうだ。
そんなことが、いまの日本でできることへのおどろき。
5アンペアとは、いったいどれだけの電気がつかえるのだろう。
斉藤さんは、お金をけちりたくて5アンペア生活をはじめたのではない。
2011年3月におきた東日本大震災のとき、
斉藤さんは福島県郡山市にある朝日新聞の支局ではたらいていた。
地震の被害を取材しているうちに、
福島第一原発からの放射能でしらないうちに被曝し、
目にみえない放射能のおそろしさを 身にしみて体験する。
また、人間関係をふくめ、それまでのくらしをめちゃくちゃにしてしまった
原発事故へのかなしみといかりがたかまってくる。
そして、それまで国や電力会社のいうままに
「安全」をうたがわなかった自分へのいらだち。
「原発が危険なものだとわかった以上、
もう二度と、動かしてはいけない」
というおもいから、斉藤さんは5アンペア生活の実践をきめた。
斉藤さんによると、電力会社によって電気代のしくみがちがうそうだ。
関西・中国・四国・沖縄の4電力会社は1ヶ月300円ほどの基本料金と、
つかった量におうじて加算される料金をしはらう。
それ以外の電力会社は、「契約アンペア制」といって、
いちどにながせるアンペア数におうじて 基本料金が設定されており、
その基本料金プラス、電気をつかった分だけしはらうやり方だ。
「5アンペア」というのは、契約のうつでいちばんひくいアンペア数であり、
具体的にはエアコン・電子レンジ・トースター・炊飯器・ドライヤーはつかえない。
掃除機も、「弱」なら5アンペアなのでギリギリ大丈夫だけど、
「強」にすると10アンペアとなり、ブレーカーがおちてしまう。
斉藤さんは、5アンペア生活をはじめたことで、
どんな電気のつかい方がアンペア数をたかくするかがわかってくる。
けっきょく電気を熱としてつかうものに無駄がおおいのだ。
電気で熱をだそうとすると、アンペア数がすぐにあがる。
エアコンが10アンペアを必要とするのにくらべ、
扇風機なら0.3アンペアですむという。
「電気は電気らしく、パソコンやテレビといった
電気でしか動かせないもののために使うほうが、
財布にも環境にも優しい、賢いやり方」
ということだ。
5アンペア生活をするうちに、
斉藤さんは「家電って、ほんとうに必要だろうか」と
根源的な疑問をもつようになる。
「人が家電を使いこなしているつもりで、
逆に家電に使われていないか、
本来なら必要のないものまで電気を使って動かしていないか」
掃除機をつかわなくてもホウキではけばいいし、
電子レンジのかわりはむし器でつとまる。
電気炊飯器がなくてもガスのほうがおいしくたけるぐらいだし、
トースターではなくフライパンでパンをやけばいい。
そしてついに冷蔵庫までやめてみる。
「思い切って手放してみると、快適だと信じていたものが、
実は快適だと思い込まされているだけだったり、
古き良きものが新製品を上回る実力を持っていたりすることがわかりました」
斉藤さんの5アンペア生活へのこころみをよんでいると、
ひとりぐらしだからできたのでは、とどうしてもおもってしまう。
まわりからもそういわれたそうで、
それに自分の家で電気をつかわないだけであり、
会社のエアコンやかいものにいくコンビニの電気はどうなんだ、という批判もうけたという。自己満足にすぎないのでは、とも。
そうした批判は、もっともそうにきこえるけれど、
斉藤さんは自分にできることを自分のやり方でためしたのであり、
まわりがとやかくいうことではない。
それまであたりまえだとおもっていた生活を、
国や電力会社にたよらないで、自分でかえたのだ。
この本をよんでいると、仕事やすむ家をかえたり、
べつにおおげさな「決断」がなくても、
電気とのつきあい方をかえられることがわかる。
斉藤さんが「おわりに」でかいているのは、
「電気をほとんど使わないという一見突拍子もない暮らしが
実はだれにでもできて、
ひとりの『変人』だけのものではないと、
どう表現すればわかってもらえるのか」
というなやみだ。
斉藤さんは5アンペアですませるために
いろいろな工夫をし、やめたこともあったけれど、
無理をして我慢したのではなく、その生活をたのしんでいた。
わたしもよんでいるうちに影響をうけて、自分でもためしてみたくなった。
5アンペアは無理でも、つかわずにすむ電気はたくさんある
(さっそくお風呂あがりのドライヤーをやめてみた)。
この本のよさは、原子力発電への口さきだけの批判におわらず、
ほんとうは電気がどれだけ必要なのかを
じっさいにためしたことだ。
そして、それが我慢ではなく たのしそうなので、まわりへも影響をあたえている。
斉藤さんのもとに、読者からのたくさんの反響があったそうだし、
友人たちのなかにも5アンペア生活にきりかえるひとがでているという。
「ひとりぐらしだからできたのでは」とかいたけれど、
斉藤さんは2014年の3月に結婚されたのちも
5アンペア生活をつづけておられる。
奥さんに我慢してもらっているのではなく、
奥さんによると、べつにたのしくはないけど、つらくもない、そうだ。
わたしは、電気代というものは 1ヶ月に1万円くらい、どうしてもかかるのかとおもっていた。
つかう道具をみなおすことで、それがたった190円になるなんて。
老後の生活を心配して、年金以外に3千万円が必要、なんて記事をよくみかけるけど、
斉藤さんのようにお金をつかわない生活がたのしめたら、
電気代だけにとどまらず、ずいぶん節約できるだろう。
これからの生活をかんがえるうえで、おおきなヒントとなる一冊だ。
こういう本は、「おもしろかった」でとどめてしまっては意味がない。
影響をうけたというからには、実践がとわれてくる。