2014年11月17日

『ウはウミウシのウ』海にすむへんな生きもの、それはこんなカタチだ

『ウはウミウシのウ』(宮田珠己・小学館)

いちにちのうちで本をよむ時間はゼロ、という大学生が
4割をこえたと 新聞にとりあげられていた。
電子書籍での読書をいれた数字だという。
わかものの読書ばなれはずっとまえから指摘されている。
ほんとうだろうか、そして、
この調査は本とのつきあい方の現状を
正確にあらわしているのか。

すべての文化に優劣がないように、
読書の調査も「本である」ことにおいて相対主義だ。
どんな本をよんでも1時間は1時間で、
哲学書や純文学がたかくあつかわれたりはしない。
内容をといはじめたら ややこしすぎる問題におちいるので、
けっきょく時間ではかるしかないのだろう。
わたしはこのごろ宮田珠己さんの脱力系エッセイをよむことがおおく、
宮田さんの本だからたいしたことない、なんていわないけど、
わたしのこの読書でも、ゼロ時間の大学生よりましなのだろうかと
こそばゆいかんじだ。
読書時間の調査は、時間以外になにかをあらわしているのだろうか。

読書をすすめている本が図書館にあったので、
ざっと目をとおしてみた。
本をよむことがどんなにすばらしいかが
あつくかたられている。
どんな本にであって自分がすっかりかわったか、
なんてこともかいてあった。
さいごのページにある著者プロフィールには
「◯◯を読み、突如として△△を志す」
「周りの猛反対を押し切り・・・」
なんて なんだか得意そうだ。
たくさん本をよんでも こんな気のきかないことしか かけないのなら、
本なんてよまないほうがいいかも、みたいな文章だ。
本についてかたるのは、自分にそのままふりかかってくるので とてもむつかしい。

宮田珠己さんの『ウはウミウシのウ』をよむ。
本文にはいるまえに、「この本の収益の一部を・・・」
とかいてあった。
おっ、とおもってつづきをよむと、
「かけがえのない世界の海と
そこに棲む生きものたちを、
わたしが見に行くために捧げたい」

つまりは、そういう本だ。

この本は、宮田さんがいろいろな海でシュノーケリングをした記録がまとめられている。
宮田さんは海にすむかわった形の生きものがすきでたまらないのだ。
魚ではだめだという。
魚はどうみても魚であり、宮田さんの感性が刺激されない。
へんなかたちの生きものとは、たとえばイソギンチャクだ。

「誰でも知っているので、
ちっとも変なカタチには見えないかもしれないけれど、
襟を正して心安らかにして見るならば、
どうかしてるんじゃないかというような変なカタチである」

そんなことをいったら、すべての生きものは
じっとよくみるとへんなかたちだとおもうけど、
宮田さんは「へんなカタチ」にこだわり、
こうして1冊の本にしてしまった。

シュノーケルでもぐることはすきでも、
宮田さんはおよぐのが苦手なのだという。

「中学生になっても苦手意識は消えず
学校の水泳大会で自由形や平泳ぎレースを避けて
浮輪レースに出場したら、
これが優勝してしまって大いにかっこ悪かったのである。
クラス対抗だったからその場はいいところを見せたような形であったが、
思えば何もかっこよくない。
浮輪を肩から斜めにかければ速いということを知っていたのは、
中学生でわたしだけだったのだ」

わたしもしらなかった。
宮田さんはこのように、ささやかだけど とても役にたつ知識をたくさん身につけており、
なんまいもフセンをはってのじゅうじつした読書となった。
このおかしさを、読書時間がゼロの大学生にもおしえてあげたい。

宮田さんがシュノーケリングをこのむのは、
ダイビングはたくさんの用具をつかわなければならず、めんどくさいからで、
こわいとかケチだからとは関係がない。
わたしもこの意見に全面的に賛成するもので、
シュノーケルとフィンだけでじゅうぶんだとおもう。

「この面倒くさいという真摯な気持ちは、
なぜか世間では不当に虐げられていて、
面倒くさいじゃ理由にならんといわれることが多いのだが、
みな何か勘違いしているとしか思えない。
面倒くさいは、性欲、睡眠欲とならんで
人間の三大欲望のひとつである。(中略)
歴史上のさまざまな事件は人間のあくなき欲望によって起こったが、
一方で面倒くさいことによって多くの事件が起こらなかったのである。
もし人間が面倒くさがらなかったら、
もっともっと世界は大変なことになっていただろう」

「面倒くさ」さのもつちからには、わたしもまえから目をつけていた。
めんどくさいんじゃあ、ほんとうに しょうがないのだ。
それだけでもうなにも反論できないつよさがある。

posted by カルピス at 13:55 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする