そして国境をこえてタイにはいる。
ルアンパバーンからの夜行バスで、
ビエンチャンのゲストハウスですこしはなしをした
旅行者(村山さん:仮名)といっしょになる。
村山さんはいま67歳で、
仕事をしながら年に2〜3回の旅行をたのしんでいるという。
海外旅行に目ざめたのは60歳をすぎてからといい、
すこしの時間もおしんで なんでもみてまわろうとする。
なにをみても、なにをやってもたのしそうで、
写真をとりまくり、まわりのひとにはなしかける。

たとえば、ルアンパバーンにいるあいだになにをしたかというと、
わたしがワット・プーをみただけで、あとはカフェや散歩だけだったのにたいし、
村山さんは1時間のスローボートクルーズ・トラディショナルダンスの鑑賞・
洞窟へのツアー・托鉢の見学と、てんこもりだ。
けさいっしょに朝ごはんをたべたら、
こんなにゆっくり食事をしたのは この旅行ではじめてです、
といわれた。レストランに腰をおろすことなく、
だいたい菓子パンを道ばたでかじることがおおいという。
ゲストハウスではドミトリー(数人がおなじ部屋ですごす)をとり、
ほかの旅行者から情報をあつめる。
旅行のスタイルはそれぞれあるとしても、
情熱的な精神においては、旅行者のお手本みたいなひとだ。
村山さんはひとりで旅行されており、
宿やのりものの予約など、いろいろなことを心配しながら、
でも全身で旅行を味わっているのがつたわってくる。
だれにでもはなしかけ、自分の希望をつたえてゆく。
あかるい雰囲気がこのまれるようで、
村山さんとはなすだれもが笑顔になっている。
自分をまだ旅行の初心者といい、
はじめての旅行から関空にかえったときは、
安心感から床にすわりこんでしまった体験や、
はじめのころはビビりまくり、
はき気がよくしていたことをはなされる。
ルアンパバーンからの夜行バスは、
例によってタタミ1枚分のスペースに2人ねるというやつで、
予約をうけすぎたらしく、通路にも旅行者がねていた。
まるで奴隷船だ。
トイレ休憩がなんどかあるものの、
トイレがないところでの休憩がほとんどなので、
しかたなく道路ぎわでたちションする。
女性もちかくのしげみにはいってズボンをおろしていた。
だれがこんなバスを設計し、だれがこのシステムをひろめたんだ!と
わたしはグチをたれていたのに、
村山さんは朝わたしの顔をみるなり
「快適なバスでした!」とうれしそうな顔であいさつされる。
となりのおばさんが気をつかってくれ、よくやすめたのだそうだ。
朝ごはんをたべた食堂でトイレをかりると、
いわゆるタイ式の、ふつうといえばふつうとはいえ、
一般的な旅行者だったら 文字どおり腰がひけそうなトイレだったけど、
「正解でした、きれいなトイレでした!」
とうれしそうにでてこられた。
なにをしても ありがたくうけとめられている。
文句ばかりくちにするわたしと、
なんにでも感謝できる村山さんは、ひととしてのできがまるでちがう。
わたしもわかいころはドミトリーでも平気だったけど、
いまはもうシングルルームでないといやだ。
67歳になるひとが、バックパッカーとして
あちこちを旅行することをすばらしいとおもう。
せっかく貴重な体験をされているのだから、
ぜひブログにかいてください、と村山さんにすすめた。
村山さんの同世代で、村山さんみたいな旅行をしたくても
自分には無理だとおもっているひとを
勇気づけるのではないか。
わたしもまた村山さんのブログをよんでみたい。
みずみずしい目で、村山さんがなにをして、なにをかんじたか。
村山さんはこれからメーサイに移動し、
あすのいちばんでミャンマーへの国境をこえるのだそうだ。
あすが元旦なので、ことしはじめての国境ごえになればおもしろいから、という。
それもふくめて、ぜひ村山さんの旅行記をよんでみたい。