『タイ国鉄4000キロの旅〜車窓風景完全記録〜』
(渡邉乙弘・文芸社)
図書館の旅行本コーナーにあったので手にとってみた。
A5版2段ぐみの691ページ。
タイトルにあるとおり、タイ国鉄のすべてにのった記録だ。
あまりのくわしい記述に、わたしは ほんとうにおどろいてしまった。
たとえば
「今日の編成は、先頭の牽引機関車がアメリカ・ゼネラルエレクトリック・トランスポーテーション・システム社製GEA形四五五五号機で、電気式ディーゼル車です。1993年からアメリカ合衆国ペンシルベニア州エリー工場で製造が開始され、1995年に三十七両輸入されたうちの一両で、カミングス社製一二五〇馬力のディーゼルエンジン二基搭載しています。
一号車は、荷物車BTC四六五号車です。新製時は食堂車として1957年に近畿車輌で製造されましたので、当時の形式はBBTでした・・・」(p56)
鉄道ファンは、こんなこまかいことに目がむくひとたちなのか。
「車窓風景完全記録」も、窓からみえる風景のうち、
印象にのこるものをとりあげるのではなく、
「完全」な描写がこころみられている。
「列車は左手に側線が分岐しても速度を緩めずにブーキット駅を通過しました。駅舎は右側にあり、ホームには駅長が一人立って列車を見送っています。(中略)
列車が軽快に走行を続けていると、左側の道路沿いに民家が数軒集まりだし学校が見えてきます。ここでアイサティア駅を通過しました。この駅は現在無人駅で・・・」(p82・83)
列車がとまっているあいだにみえた風景だけでなく、
窓からとおざかっていくすべてが観察の対象だ。
こんなにこまかな記述ができるのは、
ずっとノートパソコンをうちつづけるのか、
それともマイクをつかって情報を記録しているのか。
あるいは目にはいった風景のすべてを記憶できるひとなのか。
鉄道史的にどんな経緯でこの列車・駅が存在するのかも
もれなくおさえてあるし、
すれちがった列車についても、
それはどこそこの駅が始発で、
いまとおっているということは◯分おくれている、
みたいなことにまでふれてある。
「発車後、加速途中にアメリカ・ゼネラル・エレクトリック社製GEA形電気式ディーゼル機関車牽引のバッターワース発バンコク・フアランポーン行きの国際特急三六列車とすれ違いましたが、今日はおよそ二〇分遅れで運転されています」(p100)
列車をみただけで型やつくられた年までわかるなんて、
わたしにはしんじられない世界だ。
渡邉氏はタイ語もかなりはなせるようで、
タイ語から推察できる情報も紹介されている。
わたしは鉄ちゃんではなく、
かいてある数値や名前のほとんどが理解できないけれど、
これだけ徹底的にあらゆる情報がかきこまれると、
わからないなりにすべての文字を目でおっかけるようになる。
記録とはこうあるべきものなのだ。
リズムがよく、自分が列車にのっている気がしてくる。
じつはまだ100ページまでしかよんでおらず、
まだまださきはながい。
いちにちに50ページを目標に、2週間かけてよんでいくつもりだ。
この本をもってタイの鉄道にのったら
きっと風景が完璧に再現されていくようすにおどろくことだろう。
あまりにも圧倒的なと量と精密な描写に、
鉄道に関心がないわたしでも、
わからないなりにおもしろくよめる。