2015年03月01日

『極北』(マーセル=セロー)

『極北』(マーセル=セロー・村上春樹:訳・中央公論社)

あれはてた集落に、ひとりでくらす少女。
なんらかの原因で、人類は絶滅の危機におちいり、
生きのこったわずかな人間たちが、
無秩序な世界でほそぼそとくらしている。
暴力が支配するすさんだ世界は、
近未来のSF映画みたいだ。
世界がなぜそんなにかわりはててしまったのか、
状況説明がないので、はじめはよくわからない。
わからなくても、興味ぶかくよませるからたいしたものだ。
ちかい将来、放射能だったりあたらしい兵器の開発だったりで、
こうした世界になるのは、いかにもありそうな気がする。

半分くらいよみすすめると、ようやく世界の輪郭がつかめてくる。
それまではおおくを説明せず、
主人公であるメイクピースのうごきをおううちに、
だんだんとものがたりの世界観がつかめてくる構成だ。
メイクピースはなんどもとらわれながら旅をつづけ、
世界がどんな原理でなりたっているのかをしろうとする。
邪悪なちからに支配された、とりとめのない世界におもえていたのが、
のこされた町や人間たちの意味がしだいにみえてくると、
シンプルで、自分がよくしっていた世界にすぎないことがわかってくる。

メイクピースは、ふたたび自分の町にもどってきた。
なんだかんだと いろんなことがおこるけど、
けっきょく自分たちは 遺伝子をつたえるために生きていることをかんじる。
失われてしまったものは惜しいけれど、
あるいはこれがいちばん良いことだったのかもしれない。
二百年ばかり地球は休みをとるのだ。
その間に雨が汚れを洗い流してくれる。
そして私たちは歴史の堆積層のひとつとなる。

メイクピースは自分の子にむけて記録をのこす。
ひとたびおまえが旅立ってしまえば、
あとがどうなるかはわかっている。
五年後か十年後か、あるいはもし幸運に恵まれればもっと早く、
ある冷え込んだ朝、馬が私を振り落とすだろう。
あるいは眠っている間にストーブが引火するだろう。
あるいは私はただキャベツ畑の中に倒れているだろう。(中略)
それに対する恐怖は、私の中に微塵もない。

メイクピースは、自分ではよまないのに、
本を大切にする場面がなんどもでてくる。
本は、うしなわれた文明社会の象徴であり、
これから世界をひきついでいくものへの遺産なのだろう。
なにがあっても生きていこう、
そして、死ぬときがきたら しずかに運命をうけいれよう。
よみごたえのある、すばらしいものがたりだ。

posted by カルピス at 21:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする