2015年04月09日

『星間商事株式会社社史編集室』(三浦しをん)オタクと商社をちからずくでむすんだおもしろさ

『星間商事株式会社社史編集室』(三浦しをん・ちくま文庫)

タイトルからわかるように、
ある商社の社史編集室が舞台だ。
主人公の幸代は同人誌が趣味のオタクで、
同僚には女ずきの30代男性と、
20代のキャピキャピギャルがいて、
編集室の責任者は、遅刻ばかりしている仕事のできない課長だ。
でだしでは、いかにダメなメンバーかがむりやり強調されており、
「ショムニ」をもっとドタバタにしたおわらい版ならちょっとつらいなーと、
あまり期待しないでよんでいく。
でも、そのうちに、社史と同人誌という、
いっけん関係ないふたつがうまくからみあってきて、
いいかげんそうにみせながら、じつはよくねられた設定なのがわかってくる。
あとになって気づくような、いろいろな伏線がじょうずにはってあるのだ。
ものがたりの壮大といってよい構成と、
メンバーのかるさがうまくあわさっている。

日本が敗戦から復興していくときに、
アジアの国々で商社がどんなやくわりをはたしたか。
そうした商社のあまりおもてにだしたくない過去と、
やおいの同人誌をむすびつけるなんて、
いかにボーイズラブずきのしをんさんといえども
よくおもいついたものだ。
登場人物がやおいのオタク、というだけでなく、
同人誌やコミケという小道具がうまくいかされており、
実社会ではおもてからみえないオタクの世界が
この小説の主役でもある。
かんがえてみれば、ページをわりふり、デザインをきめ、印刷会社と交渉し、製本までもっていくのは、
同人誌も社史もたいしてかわらないのかもしれない。

社史をつくるメインストーリーのなかに
同人誌にのる4つの小説がからんでくるので、
しをんさんはあわせて5つの作品をかきわけながら ものがたりをすすめることになる。
その作品というのが、ひとによまれたら赤面するしかないような
ロマンチックだったりボーイズラブのぬれ場(しかもオヤジの)だったりする。
幸代でなくてもかくのは はずかしいだろうけど、
同人誌にのせるというひとごとの設定なので、
しをんさんはあんがいたのしくあそべたのではないか。
たくみにかきわけてあり、わるのりにあきれながらもよませるから、さすがにしをんさんだ。

お仕事小説としてもよめないことはない。
こんなテキトーな職場だったら楽でいいだろう、という意味だけでなく、
ゆるいなかにも仲間でちからをあわせ、という場面がそれなりにあり、
ものがたりのクライマックスになっている。
基本的には正義感がつよく、仕事ができるひとたちなのだ。

それにしても、本書にも登場するコミケのもりあがりはすごい。
出店するひとたちと参加者をあわせると、
数十万人が国際展示場をおとずれるそうだ。
それだけおおくのエネルギーがうごく社会現象でありながら、
あくまでもオタクたちによる裏社会の行事としてとらえられている。
ものすごい数のひとがふかい関心をむけているにもかかわらず、
おもての社会ではほとんど認識されていないオタクの世界を、
しをんさんは作品にうまくいかした。
これをかいているとき、しをんさんは趣味のオタクであそびまくり、
たのしくてしかたなかったのではないか。
そのたのしさが、作品にそのままあらわれて、
しをんさんならではの快作となっている。

posted by カルピス at 10:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする