2015年09月02日

『猪変』イノシシに なにがおきているか

『猪変』(中国新聞取材班・本の雑誌社)

イノシシをめぐる状況が、
むかしとはおおきくかわってきた。
いままではでてこなかった場所にも
イノシシがあらわれはじめる。
この本は、半年にわたり 新聞に連載された記事を編集したものだ。
瀬戸内海の海をおよぎ、島にわたろうとするイノシシの写真が
当時は話題になったという。
ほかの本をさがしているとき、図書館で偶然みつけた。
イノシシよけの電気柵をつけたところなので、
わたしとしては、すごくタイムリーなであいだ。
中国新聞とは、中国地方(島根・鳥取・岡山・広島・山口)を
発行エリアとする地方紙で、
この地域はイノシシによる被害がおおく、
なかでも島根県はその対策において
先進的なとりくみをしている県だとしる。
「人獣接近」の最前線として、
イノシシ研究の拠点にならざるをえなかった。

「先進的」といっても、
あくまで ほかの県とくらべてのはなしであり、
どうしたら田畑をまもれるか、
手さぐり状態ですすめている状況だ。
なにか画期的な方法があみだされたわけではない。
そもそも、イノシシは その生態が
ほとんどわかっていない動物なのだという。

1980年代以降、イノシシの被害がふえはじめた。
しかし、なぜイノシシが人里にちかづきだしたのか、
原因は はっきりしない。
森がへったわけではない。
ひとが山にはいらなくなったり、
ほったらかしにされた農作地を
イノシシがかくれがにしたりと、
いくつかの要因がからまっているという。
神戸の町なかにイノシシがでると ほほえましいニュースになる。
しかし、じっさいに田畑をあらされる農家としては
イノシシはかわいらしい存在ではなく、
「駆除」すべきいまわしい対象だ。

駆除とは、被害をふせぐために
ワナでつかまえたり、猟でかったりすることで、
食材として利用するのが前提になっていないので、
つかまえたイノシシの処理にこまっている町がおおい。
ジビエとして、うまく流通にのせた例もでてきている。
ただ、駆除したからといって
かならずしも農産物の被害がへっているわけではない。

イノシシからの被害をふせぐもうひとつの方法は、
田畑に柵をめぐらすやり方で、
おおくの市町村が助成金をだして農家をたすけている。
松江市だと 電気柵をとりつけた場合、かかった材料費のうち
50%に補助がでるしくみだ。
本書の写真では、トタンだけでなく、
そこらへんにある板や箱までをつかい
なりふりかまわず「柵」をつくっている畑が紹介されている。
そんなふうに、すべての田畑に柵をめぐらすのは、
農家にとっておおきな負担だろう。
しかし 田畑をまもろうとおもえば、
腹をきめて柵をめぐらすしかないようにおもう。

興味ぶかい本ではあったけど、
なにぶん記事になったのが2002年と
10年以上もまえのはなしだ。
終章に「『猪変』その後」をもうけ、
最近の情報をおぎなっているとはいえ、
データーがおおきな意味をもつたぐいの本として、
いささかふるすぎる。
いまはどうなんだ、とよんでいて なんどもおもった。
終章によると、イノシシの生態はいまだに謎だらけだといい、
被害金額もよこばいのままだ。
けっきょくいまだにきめ手のないまま
おなじような状況がつづいているらしい。

ひとはむかし 山の神としてイノシシをうやまい
ともにくらしていた。
こころのなかで、イノシシもふくめ
動物たちと ともに生きているという自然観があった。
なにかの原因で生態系のバランスがくずれ、
いまでは人間にとって ただいまわしいだけの動物としてあつかわれている。
イノシシにとっても、人間にとっても不幸な状況だ。
本書は現状の報告であり、
あかるいきざしはほとんどのべられていない。
どうしたら以前のように
保護と管理の調和がたもてるだろうか。

posted by カルピス at 15:48 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする