『カラマーゾフの兄弟』をよむ、とかいた。
合計46日をかけ、ようやく全5冊をよみおえる。
10年以上まえに米川正夫訳の「カラマーゾフ」をよんだ。
このときは、超有名な作品を
とにかく「よんだ」というのが目的だった。
たしかに目的をはたしたとはいえ、
たのしんだというよりも、
退屈をなんとか我慢した記憶しかない。
『カラマーゾフの兄弟』のおもしろさを
リアルにかんじたかったので、
光文社の古典新訳文庫として、
亀山郁夫氏の新訳がでたときに、全5冊をかった。
いつかリゾートホテルのプールサイドで、
なんておもっていたけど、
なかなかそんな機会はおとずれない。
その「いつか」をことしの夏とする。
「カラマーゾフ」なら、ひと夏のイベントにふさわしい
難易度とボリュームではないか。
亀山氏による新訳は、
ネットをみると賛否がわかれており、
なかにはひどくけなしているひともいる。
わたしはロシア語がわからないので、
よみやすかったかどうかだけにしぼって感想をかきたい。
よんだペースを紹介すると、1、2巻がずいぶんおそく、
それ以降はスピードがあがっている。
・第1巻 443ページ 17日(1日あたり26ページ)
・第2巻 501ページ 12日(1日あたり42ページ)
・第3巻 541ページ 4日(1日あたり135ページ)
・第4巻 700ページ 6日(1日あたり117ページ)
・第5巻 365ページ 7日(1日あたり52ページ)
新訳といえども、はじめはとっつきにくかった。
とにかくすこしでも毎日よみすすめようと、
お風呂での読書にとりいれる我慢の時期だ。
第3巻にはいるとものがたりがおおきくうごき おもしろくなる。
いちにちによむページ数がずいぶんはかどった。
第5巻は60ページほどのエピローグと、
あとは亀山氏による解説なので、
エピローグをよみおえたあと 気がぬけてしまい
ペースがおちた。
わたしには、亀山氏の訳がただしいかどうかはわからない。
ただ、とてもよみやすかったし、
「カラマーゾフ」の世界をたのしめたといえる。
米川正夫氏の訳をよみおえたときには、
こんなので「よんだ」といっていいのか
とまどうくらいふたしかな「よんだ」だった。
今回はちがう。
ものがたりをたのしんだ手ごたえがある。
作品の世界をリアルにかんじ、
個性的な登場人物のうごきにもついていけた。
いちど目だけでカラマーゾフを「よんだ」ことにせず、
新訳版にとりくんでよかったと本心からいえる。
いちど目だけでおわっていたら、あまりにも もったいなかった。
「訳者あとがき」のなかで亀山氏は
わたしがめざしたのは、何よりも読みやすさである。(中略)少なくとも登場人物の名前に関しては、なんとしても工夫をこらし、自分が許されると考える最大限の簡略化を試みることにしたのだった。
何よりもわたしは、グローバル化と呼ばれる時代に、最後まで一気に読みきることのできる『カラマーゾフの兄弟』の翻訳をめざしたかった。勢いが、はずみがつけば、どんなに長くても読み通すことができる、そんな確信があった。
と、よみやすさへの配慮をかいている。
わたしが『カラマーゾフの兄弟』をたのしめたのは、
まさしく こうした亀山氏の配慮のおかげだ。
これから「カラマーゾフ」をよんでみたいひとへ。
わたしからのアドバイスとして、
なんとか2巻のおわりまでたどりついてほしい。
すこしたいくつだとおもえても なんとか我慢する。
2巻がいちばんの難所であり、そこをクリアーしたら
あとは一気に5巻までいける。
各巻のおわりにおさめられている
「読書ガイド」にもすくわれた。
まえの巻のあらすじがまとめられており、ざっと復習できる。
「カラマーゾフ」にかかれている事件は、
みじかい期間におきたできごにすぎない。
しかし、ものすごい密度とボリュームに圧倒され、
いったい自分がいまどこにたっているのか ときどきわからなくなる。
そうしたときに「読書ガイド」による整理がありがたかった。
最終巻の「解題」もまた、わたしのカラマーゾフ体験をたすけてくれた。
わたしのよみ方など、ごくあさい理解でしかないけれど、
「読書ガイド」と「解題」がなければ
もっとまずしい感想しかもてなかったにちがいない。
2015年の夏は『カラマーゾフの兄弟』をよんだ年として
つよく記憶にのこるだろう。
亀山氏による新訳『カラマーゾフの兄弟』をわたしはおすすめする。