2015年10月30日

北上さんの自薦ベスト3にひかれて『魔術はささやく』(宮部みゆき)をよむ

『魔術はささやく』(宮部みゆき・新潮文庫)

北上次郎さんが『勝手に!文庫解説』のなかで
自薦ベスト3に この本をあげている。
作品の評価ではなく、解説としてのベスト3だ。
はじめてほめられた解説なのだという。
解説めあてに本書をよみはじめた。

『魔術はささやく』は、出版されたのが1989年で、
93年に文庫になり、わたしがよんだものは
96年の28刷だから すごい人気だ。
でも、わたしにはふるめかしさが気になって、
なかなかはいりこめない。
おもしろくなったのは、まんなかくらいからだ。
なんだか怪人二十面相シリーズをよんでいるような、
ひとむかしまえの小説におもえる。
賞味期限があたまをかすめる。
ようやくよみおえて 北上さんの解説をみると、
これがまた、とびきりの絶賛だ。
何を語るのかということに腐心するあまり、どう語るのかということが忘れられているのが昨今の日本エンターテインメントの現状であることを考えれば、この資質と努力と誠意は賞賛に値する。(中略)どんな賛辞を並べてもまだ足りないだろう。小説を読むことの至福とはこういう作品を読むことを言うのである。

北上さんの解説をよんでもまだ、
わたしにはこの小説のふかみが理解できない。
残念ながら、わたしにわかる本の魅力はかなり限定的だ。

村上春樹さんの『女のいない男たち』でも
おなじことをかんじた。
この本におさめられている短編のなかで、
『木野』だけは 無理やりなストーリーにおもえ、
いまひとつはいりこめない。
しかし、『村上さんのところ』では、
何人もの読者がこの作品をとりあげている。
ほかの短編とはちがう世界観にひかれるという。
わたしには、文学のふかみを味わうちからがかけている。
すべてをエンタメの視点からしかみれない。

北上さんによる自薦ベスト3のもう1冊は、
椎名誠さんの『わしらは怪しい探検隊』だ。
この解説は、探検隊がうまれそだった背景や、
東ケト会の「隊員のうた」、
椎名さんのわかいころのむちゃぶりなど、
北上さん(この本の解説は目黒考二として)
でなければかけない内容であり、
オチもきまっている。
これは文句なしにおもしろかった。

(追記)
解説つながりでいうと、宮部みゆきさんは、
高野秀行さんの『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)に
解説をよせている。
今の世の中には、絶対に、こういう本が必要なんです。みんながみんな、探検部のメンバーみたいに生きることはできないからこそ。

幻の怪獣さがしに無条件であついエールをおくる、
この解説もまたすばらしい。

posted by カルピス at 14:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本の雑誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする