数年に1冊のやばい本だ。
よみはじめるとすぐにひきこまれ、
スケジュールがめちゃくちゃになる。
よんでいるときはしあわせで、
よみおえたあとはちからがぬけ、
しばらくほかの本があたまにはいらない。
伝説的なすごうでのスナイパーという設定は、
本や映画でめずらしくはない。
彼らのおおくはたかい集中力をたもち、
むつかしい条件のなか 冷静沈着にひきがねをひく一流のプロだ。
しかし、本書の主人公であるボブ=リー=スワガーの特質は、
素質・経験・知識といった一般的な能力だけではない。
彼は、自分とライフルを最高のコンディションにたもちつつ、
ねらった相手ともフェアな関係であろうとする。
彼がライフルとのあいだにきずいてきた世界は、
コミュニケーションがとれるほど親密であり、
ゆるぎない価値体系をつくりあげている。
たかい倍率のスコープをつけた高性能ライフルなら、
だれにでも目標にあたるというものではない。
距離・弾丸の特性・気温・湿度・風むきとつよさ・
目標物との高度差の把握。
なによりも、どんな状況であろうと
リラックスして射撃する瞬間をまつ、豊富な経験が必要だ。
弾道特性表を記憶していたから、150グレーンの弾丸は320ヤードの距離では約10インチ下降することになり、おなじ距離で速度は秒速約2160フィートまで落ちることはすぐに割り出せた。もっとも、アキュティックのこの弾丸は標準よりいくらかすぐれていることもわかっていたから、下降の幅を8インチと推定した。とはいえ、この射撃は下向きだから、水平に撃つときとはいくらか話が違う。角度をつけて撃ち下ろした弾丸は下降が大きくなるので、もう少し多めに見積もらないければならない。
ベトナム戦争で超人的なはたらきをしめしたボブは、
いまはひとりで山にこもり、しずかな生活をおくっている。
そんなボブを罠にはめ、大統領の演説にあわせて
暗殺計画をすすめる組織があった。
ボブはどこかおもわぬ状況に誘導されるのをかんじながら、
難易度のきわめてたかい仕事にひかれ
彼らからの接触をゆるしてしまう。
山場となる狙撃シーンがいくつもあり、
ボブのテクニックがぞんぶんに発揮される。
ふつうのミステリーなら2冊はかけるところだ。
男ばっかりの小説だとおもわせて、
魅力的な女性もちゃんとでてくるし、
さいごには法廷までからんでくるという
いたりつくせりの構成になっている。
悪役となる組織はじゅうぶん強力で、彼らもまたプロであり
ボブがうちころしてもかわいそうにおもわなくてすむ
(そうおもってしまう自分がこわい)。
いちばんいやらしい「敵」だったのがFBIの特別補佐官で、
要所要所にでてきては、
ボブの仲間となるFBI捜査官をネチネチとこきおろす。
クラリスをいたぶった上官とおなじひとみたいだから(気のせい)
レクター博士におねがいして、
脳みそ料理を注文したくなった。
でも大丈夫。ボブがきっちりやりかえしてくれる。
ボブ・リー・スワガーものとしてシリーズになっており、
本書はその1冊目だ。
ボブの仕事ぶりを まだ何冊もよめるのがうれしい。