『メゾン・ド・ヒミコ』(犬童一心:監督・2005年・日本)
かつてゲイバーのママだった卑弥呼が、
ゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」をひらく。
海辺にたつモーテルを改造してあり、
上質の家具と 海をみわたすめぐまれた風景のせいか、
避暑地のちいさなホテルみたいだ。
非日常だった空間が、夢のホームとしてうまれかわった。
こういう浮世ばなれした おとぎばなしが わたしはすきだ。
まずありえないであろう設定に、
たくみに肉づけしてリアリティをもたせる。
しっかりした管理者がいて
運営に関する雑多な仕事をこなしてくれる。
コックさんは手のこんだ季節の料理を工夫する。
世間からは、ちゃんとうしろ指をさされる場所でもある。
そんな道具だてから、
いかにもいごこちがよさそうな
不思議な世界ができあがった。
そしてわたしは夢みる夢子さんだ。
沙織に「メゾン・ド・ヒミコ」へのさそいがきたように、
わたしにも「ある日突然」がこないかと、いつまでもまっている。
でてくるひとたちは、みんなおもったことをくちにする。
沙織(柴咲コウ)も、彼女がつとめる会社の専務も、
「メゾン・ド・ヒミコ」のゲイたちも、
自分をつくろう うすらわらいなんかしない。
わたしの普段のふるまいが、
偽善的でうすっぺらにおもえてきた。
沙織のしかめっつらにわらわせられる。
いつもマユをひそめ、
うたぐりぶかそうに世間をみている。
あのつよい目ぢからはなんなんだ。
そんな目つきでふくれっつらをしていると、
あの柴咲コウが、さえないブスの事務員になってしまう。
芸能オンチのわたしは、
彼女が柴咲コウだとわからなかった。
でも、はじけたときの笑顔はとても魅力的になる。
コスプレでのバスガイドは とくにきまっていた。
わたしはオカマではないけれど、
タイトスカートをはいてみたくなった。
「すべての女性はうつくしい」と
写真家の荒木経惟さんがいっていたのはほんとうだ。
沙織みたいな女の子をブスにみせてしまうのは、
気もちを開放できない環境が原因であり、
警戒をといて笑顔をみせると別人になる。
すべての女性はうつくしいのに、
配偶者をしかめっつらにさせているのは
わたしだ。