2016年01月16日

『ビート・オブ・ハート』(ビリー=レッツ)

『ビート・オブ・ハート』(ビリー=レッツ・文春文庫)

『ハートブレイク・カフェ』の著者によるデビュー作。
作品のあたたかさが2冊ともよくにている。

17歳のノヴァリーは、ボーイフレンドの車にのって
カリフォルニアにむかっている。
両親とも彼女をすて 家をでており、しばらくまえから
ひとりで生きていかなければならない身のうえだ。
ノヴァリーは妊娠しており、生まれ故郷をはなれ、
しらない町で ボーイフレンドとの
あたらしいくらしがはじまるはずだった。

ボーイフレンドのジャックは、そんなときのパートナーとして
どうかんがえても最低の男だ。
ことばにおもみがなく、自分のことばかりかんがえている。
あろうことか、ジャックは旅のとちゅうにとまったちいさな町で
ノヴァリーをおきざりにし、ひとりでいってしまう。
身よりのないノヴァリーは、とまる場所のあても、お金もない。
だれにもみつからないように
ウォルマートにかくれて夜をあかすうちに、
ある日とうとう店のなかで出産してしまった。

筋をおってるだけでノヴァリーがかわいそうになってくるけど、
彼女は生まれながらにひどい境遇がつづいていたせいか、
それほど状況を深刻にはうけとめていない。
すくなくとも、いじけたり、
自分をあわれんだりしなかった。
ジャックにおきざりにされ、とほうにくれながらも、
ちゃんと現実的な解決策をかんがえ なりゆきにまかせる。

おきざりにされたノヴァリーは、
たてつづけに町のひと3人から声をかけられる。
ノヴァリーは、自分がおきざりにされたと
身のうえばなしをしたわけではない。
3人ともそれぞれの立場で 妊婦としてのノヴァリーとむきあい、
敬意をはらってことばをかわしている。
このときにであった3人が、
ずっとあとまでノヴァリーにとって
なくてはならない大切なひととなる。

『ハートブレイク・カフェ』は、
店にあつまるひとたちのやりとりを
えがいたものがたりだったけど、
この『ビート・オブ・ハート』は
町ぜんたいが舞台となっている。
すてきなひとたちがすむ町に ノヴァリーがささえられて
生活をきずいていくものがたりだ。

ノヴァリーは、子どもをそだてながら
すこしずつ自分の世界をひろげていく。
本をよみ、写真のとり方をならい、
大学にもかようようになり、
なによりも 愛するひとをえる。
両親から親らしいことをなにもしてもらえず、
17歳で妊娠し、ボーイフレンドにすてられ、
ウォルマートで出産するという
はげしいマイナスからのスタートをおもうと、
よくここまでやってきたと ノヴァリーをたたえたい。
ノヴァリーがまえをむきつづけたからこそ
町のひとたちは彼女を大切にした。

わたしは『ハートブレイク・カフェ』のすがすがしさを
もういちど味わいたくて
この『ビート・オブ・ハート』をひらいた。
目的どおり、ビリー=レッツならではの世界に
どっぷりつかる読書となった。
どちらの本も、ものがたりのおもわぬ展開でよませてくれる。
ジョン=アーヴィングの作品から毒をすこしぬいたような
雰囲気が特徴だ。
世のなか、なにがおこるかわからない。
もしわたしのまえに妊娠している17歳の女の子があらわれたら、
ノヴァリーがされたように、尊厳をもってせっしたい。
その場でちからになりたいというのではなく、
そうすることが ひととして大切だとおもうから。
わたしのすむ町も、ノヴァリーの町みたいに
だれもをうけいれられる町であったほうがたのしい。

posted by カルピス at 22:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする