酒のやすうり店のまえを車ではしっていると、
「本日特売日」とかかれた看板が目についた。
二日よいぎみのわたしは、
なんで酒なんかうるんだと、悪態をつく。
二日よいのときはいつもだけど、
酒なんかのむ人間の気がしれない。
世のなかに酒なんてなければいいのに。
以前しりあいとはなしていて、
高速道路のサービスエリアでは
アルコール類をうっていないときき 感心したものだ。
高速道路で酒なんかのんではあぶないので、
それくらいきびしく酒をとおざけるのが当然だとおもった。
さすがは高速道路だ。
しかし、よくかんがえてみると、
飲酒運転が危険なのは高速道路だけではない。
高速道路でのアルコール類を禁止するのなら、
おなじ論理が なぜほかの道路には適用されないのだろう。
道路に面しているすべてのお店は、
基本的にお酒をあつかってはいけないのではないか。
それがおおげさだというのなら、
高速道路での禁止は理屈にあわない。
道路に面したお店では、酒をうってはいけないとなれば、
これに該当しないお店は ほんのわずかしかないはずだ
(道路に面していない店って、あるのか?)。
ほとんどすべてのお店は道路に面しているわけで、
高速道路だけ酒をうるのをやめるのは 理にかなってない。
きわめつけのザル法であり、
この中途半端さは、もしかしたら
ものすごく日本的な精神をあらわしているのではないか。
なんでまえは すっかり感心してしまったのだろう。
村上春樹さんの旅行記に、
北アメリカ大陸を横断したときの体験として、
酒類の販売がみとめられていない
ユタ州をとおるくるしさがかかれていた。
旅行記は、だいたいにおいて
自分にふりかかってきたアクシデントを
おおげさに表現しがちだけど、
州全体が酒をきんじているとなれば、
旅行者はどうしようもない。
わたしは、これまでイスラム教の国を いくつか旅行しながらも、
村上さんのようなたいへんさは 味わったことがない。
マレーシアとインドネシアは、
イスラム教のあつい信仰でしられているけれど、
これらの国には漢民族やインド系のひともすんでおり、
国全体の禁止ではない。
モロッコとアルジェリアは、フランスの影響がつよくのこり、
旅行者がワインをのむぶんにはなんの問題もなかった。
高野秀行さんの『イスラム飲酒紀行』には、
イスラム圏の国で、地元の酒ずきをまきこみながら、
どんなふうに酒をのんできたかが紹介されている。
たとえイスラム圏の国であっても、
こっそり酒をのんでいるひとがかならずいるのは、
こころのよわいわたしをよろこばせる。
こうしてみると、世界じゅうで酒をかえないエリアは
タリバーンやISが支配する地域をべつにすると、
日本の高速道路とアメリカのユタ州だけかもしれない。
日本の高速道路は、宗教による理由ではなく、
根拠のないとりきめが ながらくまもられている めずらしい例であり、
わたしはこうした わけのわからなさが わりとすきだ。
酒とつきあうときに、理屈だけではどうにもならない。
せっかく高速道路で効果をうんでいるのだから
(だからいまでもつづいているのだろう)、
あらゆる道路に面したお店にも、
高速道路とおなじ規則を適用すればいいとおもう。
酒の販売店だけでなく、
酒をだす居酒屋やレストランも対象となるので、
結果としてイスラム圏の国よりも
アルコール類にきびしい国にうまれかわる。
二日よいのときだけ、そんな国にすみたい。