2016年04月28日

『噂の女』(奥田英朗)

『噂の女』(奥田英朗・新潮文庫)

地方都市にくらす20代の女性、糸井美幸が
「女」を武器に しだいにのしあがっていく連作短編集。
高校のときはめだたない生徒にすぎなかった美幸が、
短大にすすんでからは、一転してやり手になった。
作品では、はじめ中古車販売店の事務員として登場し、
ものがたりがすすむにつれて、雀荘のアルバイトや
料理教室にかよう女など、しだいにスケールをあげていく。
なんにんもの男をとりこんで、ちからをつけていく美幸は、
やがてクラブのママとなり、ついには県議会議員の愛人におさまった。
弟はヤクザで、ちょっとしたもめごとには
暴力をちらつかせて解決する。
色気と権力、それに暴力をぞんぶんにいかして
美幸にはこわいものなどない。
まるで女性版のゴッドファーザーみたいだ。
「噂の女」とは、そんな美幸がひきおこす くろい噂をさす。

自分の魅力をいかし、つぎつぎに男をとりこむ美幸がすごいとはいえ、
男とは、つくづくしょうがないいきものだとおもう。
美幸にちかづけば、ろくなことにならないのがわかっていても
彼女をみると どうしてもひかれてしまう。
ひとつひとつのはなしをよんでいると、
どれも被害者の男にとって悲劇だけれど、
みずからの欲がまねいた問題なので
よんでいるものにとってはジメジメ感がない。
それに、ほんとうの修羅場をむかえる直前で
はなしがきりあげてあり、
男はアホだなー、のあかるい感想でおわる。

地方都市での公務員が
どれだけおいしい汁をすっているかも
本書ではあちこちに紹介されている。
市営住宅にはいれるかどうかは 公務員のコネ次第だし、
土建業界は、役人のあまくだりさきを
順番でひきうけなければならない。
すべてのなれあいは、地方でいきるものの たすけあいであり、
業界全体がいきのびるためにゆるされる。
しかし、そんな体質が地方都市だけにとどまるはずがなく、
日本全体、そして世界じゅうにはびこっているのは想像がつく。
この本にかいてあるできごとは、
どこにでもみられる、普遍的な人間のよわさだ。
そんなトホホの世界を背景に、
自由におよぎまわる美幸がにくめない。
あの好青年は、色仕掛けで美幸と寝て、その後、暴力団から脅されるのだ。
仕方がない。業界の平和のためだ。
なにやら気が抜け、仕事をする気がなくなった。急ぎの仕事もないので、竹内はパチンコに行くことにした。

土建会社の社長、竹内のことばが、
作品のすべてを的確にあらわしている。
男はアホで、色気と政治権力と暴力を自在にあやつる美幸に
どうしたってかなわない。
そんな美幸をつくりあげたのは、
女性をぞんざいにあつかってきた男たちだ。
美幸のえげつなさにわらいながら、
男のしょうもなさと、女のこわさをおもいしる。

posted by カルピス at 21:50 | Comment(1) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする