2016年08月23日

『ジブリの仲間たち』(鈴木敏夫)

『ジブリの仲間たち』(鈴木敏夫・新潮新書)

鈴木さんがかいたこの手の本を
すでに何冊かよんだような気がしてたけど、
オビのコピーにあるとおり、
この本は「宣伝と広告」だけにマトがしぼられていた。
鈴木さんがプロデューサーとして
どのようにジブリ作品とかかわり、
それぞれを どう評価しているかがかかれている。
鈴木さんはヒットしたから成功とか、
あたらなかったから失敗とはかんがえていない。
どんなねらいでつくった作品で、
宣伝と広告をどのようにおこなったかにより、
いろいろなまとめ方ができる。
『おもひでぽろぽろ』は想定外の大ヒット。『紅の豚』も予想を超えるヒット。『ぽんぽこ』は「当たる」という期待があって、いい映画館を用意した上での結果なので、順当なヒット。その意味では『耳をすませば』も大ヒットなんです。よくマスコミは単純な興行成績ランキングでヒットを論じていますけど、プロの味方というのは違います。予想のラインを超えてどこまで伸びるかで、成功か失敗かを判断しているんです。

「ナウシカ」のころは、宣伝にまったく興味のなかった鈴木さんが、
企業とのタイアップのやり方とか、キャンペーンのうち方を身につけ、
しだいにスタイルがかたまり、
勝利の方程式みたいなのができあがってきた。
タイトルの『ジブリの仲間たち』の「仲間たち」とは、
宣伝にかかわってくれたひとたちのことだ。
「宣伝とは仲間を増やすこと」と鈴木さんはとらえており、
作品ごとにあたらしい宣伝のやり方を工夫しながら
「仲間」をふやしている。

基本的に鈴木さんは、宮ア駿監督と、高畑勲監督が、
仕事をしやすい環境をととのえるために映画をつくってきた。
作品をつくるときだけアニメーターをやとうのではなく、
ジブリという会社をたちあげ、
正社員として スタッフの身分を保障する。
とうぜんそれまでよりも経費がおおくかかるのだから、
つぎの作品をつくるためには ヒットさせなければ
経費を回収できない。
ジブリに鈴木さんがいたおかげで、
わたしたちは宮崎さんと高畑さんの作品を
これだけみられたと、感謝したほうがいい。

わたしとしては、どのように映画を「売ってきた」かよりも、
作品づくりについてのはなしのほうに関心がある。
それにもかかわらず、1冊の本として おもしろくよめたのは、
もうけた自慢ばなしではなく、
作品ごとにどうやってあたらしいひとをまきこみ、
チームとしてのちからをたかめていったかが
かかれているからだ。
鈴木さんは、ヒットしたからいい「仲間」とはおもっていない。
そのときどきにおいて、いいつきあいができたから「仲間」になり、
「仲間」がふえたから作品がヒットした。
プロデューサーという仕事柄、多くの人と付き合いますが、単なるビジネスというふうには捉えません。会社対会社じゃなくて、人対人なんです。だから電通と博報堂、ローソンとセブンイレブンといった、ふつうなら競合する企業といっしょに付き合える。逆にいうと、人がいなくなれば、その企業との関係がどうなるか、わからない。(『仕事道楽』岩波新書)

つくり手の「なぜ」については、まわりがいろいろ気をまわして
資料がまとめられるけど、
鈴木さんのようなプロデューサーが
どう作品とかかわってきたかは
なかなかおもてにでてこない。
ジブリに鈴木さんがいた幸運をありがたくおもう。

posted by カルピス at 21:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする