渡辺一平選手が200m平泳ぎで世界新記録をだした。
わたしはむかし水泳部に所属し、平およぎを専門にしていた。
渡辺選手とタイムはくらぶべくもないが、
200メートルが2分6秒代というのは
新聞にあるとおり まさしく「驚速」だ。
むかしから日本は平およぎを得意種目としていたけど、
わたしが20代のころは ちからでおしとおすスタイルがはやっていた。
100メートルの世界記録として アメリカ人のルンドクイスト選手が
平およぎで1分1秒台をだしたとき、
あまりの筋肉質なからだに、
もう日本人は世界のながれについていけないと
わたしはあっさり白旗をあげた。
体格がちがいすぎ、テクニックでどうにかなる差ではないとおもった。
世界レベルとのそんな差を、すこしずつうめていった日本の水泳界に
はげしく拍手をおくりたい。
世界新記録をつたえる映像をみると、
渡辺選手のおよぎはすごくゆっくりだ。
フォームのはやり すたりがあるとはいえ、
渡辺選手はピッチ数のすくないおよぎ方をえらんだのだ。
ひとかきであんなにすすめるなんて、
水のなかでいったいなにがおこっているのだろうか。
50代となったわたしは、クロールや背およぎでさえ、
いまや回転をあげておよげない。
自分では風車のように すごいスピードで
手足をうごかしているつもりでも、
はたからは、ゆっくりLSDをたのしんでいるとしかみえないだろう。
でも、渡辺選手のおよぎなら、わたしもマネができる。
ひとかきしただけで ぐいぐいすすむのだから、
ほんとうはマネなどとてもできないけれど、
すくなくともピッチ数だけはおなじおよぎができる。
渡辺選手は、193センチの身長をいかしているとはいえ、
おおくの平およぎのレースで、ああしたフォームを目にする。
世界のトップレベルがあんなにゆっくりうごく種目は
ほかの競技をみても例がないのではないか。
ほとんどスポーツが、回転をあげてスピードをたかめようとする。
水泳は重力が関係なく、水の抵抗をどれだけすくなくして、
推進力にむすびつけるかが大切となる。
海をおよぐ魚やクジラのなかまだって、
回転数ではなく、流線型をどうやってたもつかにより
およぐスピードを調節している。
人間のおよぎが海の動物にちかくなるにつれ、
回転にたよらないで、流線型をもとめるフォームになるのは
自然なながれかもしれない。
将来は、クロールやバタフライも、
渡辺選手のような ゆったりしたおよぎが主流になるとおもしろい。