週刊文春に連載されているエッセイ「新宿赤マント」をまとめた本で、
2012年に出版されている。
このなかに「千の無駄話」という題のエッセイがのっており、
なんのことかというと、連載が1000回目をむかえたはなしだ。
週刊誌での連載なので、1000回目をむかえるのに20年もかかっている。
なんのためにもらないことを、1000もかいてきた、と
椎名さんはこの20年間をふりかえる。
すぐれた内容の本だから、このブログで紹介したくなったのではなく、
20年もつづく どうでもいいようなはなしは、
それはそれで、ひとつの達成であり成果だとおもった。
椎名さんについて、
コップに水がはいっている、ただそれだけの風景をみても
なにかしらの文章をひねりだせるひと、みたいないい方で
評価した文章をよんだことがある。
たしかに、いつもいつもハッとするはなしばかりではないけれど、
椎名さんはこのシリーズのようなエッセイを、
安定したレベルで いろんな場にかきつづけている。
これまでにものすごい数の本をだしてきたひとなので
(文庫だけでも150冊以上、と本書にある)、
すでにどこかでよんだはなしがおおい。
たき火やキャンプにさかなつり、ときどき本のはなし、
コンビニなど、日本的なサービスやシステムへのグチなど、
めあたらしくはないものの、それなりにたのしめる。
えー、この「赤マント」今回で連載1000回であります。毎週毎週、書いてきました。雨の日も風の日も。二日酔いの日もゴホホホの風邪の日も。船のなかでもヒコーキでも。泣いた日もある笑ったことも。楡の木陰で書いた日も。君たちがいてぼくがいた。いや、ぼくはずっと書いていたけど君たちはずっと読んでくれていたかどうか。楡の木陰で書いたこともなかったな。
うまいものだ。
政治や世界平和や日本の問題点、というようなものを書いたことは自信をもって言えることだがただの一度もない。
2011年の東日本大震災は、連載1000回目のすこしあとにおきている。
椎名さんは、仕事やあそびで東北地方に
ずいぶんお世話になっているはずだけど、著書に目をとおすかぎり、
大震災のあと、なにかの支援活動にとりくんだようすはない。
はじめは、ずいぶん薄情なひとだときめつけていたけど、
活字にしないところで、どんな活動をされているか わからない。
この本みたいに、お気楽なエッセイをかきつづけることだって、
ひとつの意思表示であるし、
椎名さんがこれからどんなうごきをとるかはわからない。
おおくのひとが なんらかの形で被災地とかかわろうとするとき、
それなりに有名人である椎名さんがなにもしないのは、
あんがい たいへんな覚悟がいるのかもしれない。
なんの役にもたたない人間でいようとする
椎名さんのようなひとこそ評価したい。
椎名さんのエッセイを気らくにながめる時間が わたしはすきだ。